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2021年7月13日 (火)

人生を旅に例える

Title:ゴー・トゥー・アール・フォーティーファイブ
Musician:花*花

2000年にシングル「あ~よかった」「さよなら大好きな人」が大ヒットを記録し、紅白にも出場を果たすなど一躍、時の人となったものの、2003年に活動を休止した女性2人組デゥオ花*花。ただその後、2010年に活動を再開。残念ながらその後は以前のような大きなヒットはないもののコンスタントに活動を続け、昨年はメジャーデビュー20周年を迎えました。そんな昨年はベストアルバムをリリースしましたが、今回、リリースされた約4年ぶりとなるニューアルバムが本作です。

そんな久々となるニューアルバムは5曲入りのミニアルバムなのですが、短い中で花*花らしさがつまった作品に仕上がっていました。花*花の大きな音楽的な特徴としては、まずひとつにソウルやブルース、フォークなどの要素を包含しつつ、基本的には日本人に耳なじみやすい歌謡曲テイストと上手くバランスさせた曲調だと思います。今回のアルバムでも、そんな彼女たちの深い音楽的な素養を随所に感じられる楽曲が並んでおり、ブルージーに聴かせる「茜空テールランプ」からスタートし、フォークやカントリーの要素を感じるアコースティックなポップ「happy」、さらにボブ・ディランのカバー「I shall be released」はソウルやゴスペルの要素を入れつつ、彼女たちの絶妙な節回しがゆえに、どこか歌謡曲的な要素も同時に感じます。

さらになんといっても大きな魅力なのが彼女たちの書く歌詞。何気ない日常や身の回りの出来事を暖かく描く彼女たちの歌詞は、大ヒットした「あ~よかった」などでも顕著ですが、今回のアルバムでもそんな魅力的な歌詞があふれており、もっとも印象的なのは「happy」でしょう。歌詞のテーマはタイトル通りなのですが、それも大上段に構えたような幸せではなく、ふとした日常の幸せを描いた歌詞で、「新しい洋服」「甘いコーヒー」「ほどよく冷えた生ビール」「気心の知れた友達」と、日常の中でのちょっとした幸せを感じさせるアイテムが次々と登場。最後も

「隣で寄り添って眠る黒い犬と大きな窓
そんな些細なことが私の幸せ」
(「happy」より 作詞 おのまきこ)

と、まさに些細な日常の中の幸せが大きなテーマであるとはっきりと示されています。

また「新しい今日」でも、いつもと違う新しい今日というのが歌詞のテーマですが

「いつもと違う方向の電車に乗って 行き先も決めずに気ままに行こう」
(「新しい今日」より 作詞 おのまきこ)

というように、あくまでも日常の中でのちょっとした冒険がテーマとなっており、あくまでも日常の立脚した、ほっこりとした歌詞が大きな魅力となっています。

ただ、そんな中でも印象に残る歌詞といえば、なによりもアルバムの冒頭「茜空テールランプ」の一番最初でしょう。

「昭和に生まれて
平成を泳いで
令和にたどり着いたよ」
(「茜色テールランプ」より 作詞 こじまいずみ)

同世代としてはかなり心に響いてくる歌詞ですが、人生を旅に例えた上で、あらためて彼女たちの歩みを振り返りつつ、先を見据えた歌詞が印象的なこの曲。アルバムタイトルも、そんな「旅」を彷彿とさせますし、おそらく「アール・フォーティーファイブ」とは「R45」で、「45」とは彼女たちの年齢をあらわしているのでしょう。人生の後半戦に入り、いままでの自分たちの歩みを振り返りつつ、まだまだ先の長い人生を見据えた歌詞。それはこのアルバムの他の曲にも共通としたテーマとして感じられますし、また、あくまでも自分たちの身の回りをテーマとした彼女たちらしい歌詞と言えるかもしれません。また、同年代の私の胸にも響いてきたテーマでした。

基本的に歌謡曲的、邦楽的なテイストの暖かいポップチューンの中に、絶妙に洋楽的な要素を入れるバランス感覚も見事ですし、ある意味等身大の背伸びしない歌詞の世界も非常に印象に残ります。決して派手な楽曲はないものの、どの曲もとても暖かく、聴き終わった後にしっかりと印象に残る良質なポップスばかり。5曲のみのミニアルバムとはいえ、あらためて彼女たちの実力を感じさせる傑作でした。

評価:★★★★★

花*花 過去の作品
2×20

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