次のEGOの方向性も示唆?
Title:あまい
Musician:中納良恵
ご存じEGO-WRAPPIN'のボーカリスト、中納良恵の、ソロとしては約6年ぶりとなるニューアルバム。ソロとしては久しぶりとなるアルバムになるのですが、EGO-WRAPPIN'としても2019年にアルバムがリリースされた前は2013年のリリースまでアルバムリリースは遡ることになり、ある意味、ソロもEGOとしての活動もスローペース。文字通り、マイペースな活躍が目立ちます。
さて、そんな彼女のソロアルバム。前作「窓景」もEGOとは異なる、彼女の演りたい音楽を自由に織り込んだ作品に仕上がっていましたが、今回のアルバムもまた、EGOではできないような作品が並ぶ、非常に自由度の高い作品になっていました。
まずは基本的に挑戦的、ポストロックなどからの影響も感じる作品が目立ちます。冒頭の「オムライス」もボーカルにエフェクトをかけ、ドリーミーに聴かせる不思議な感触のアカペラチューン。続く「オリオン座」も、ピアノをバックにシンプルな歌を聴かせるミディアムチューンなのですが、終始流れるハイトーンの打ち込みのリズムが独特のグルーヴを作っています。さらに終盤「ポリフォニー」はシンプルなエレクトロビートでトライバルに聴かせる作品で、複雑なサウンドが目立ちますし、「真ん中」もピアノと打ち込みのリズムで、疾走感あるポップながらもどこかアバンギャルド的な作風に。ラストの「おへそ」もエレクトロサウンドでドリーミーな作風になっており、ある意味、1曲目の「オムライス」と対になっているような作品。EGO-WRAPPIN'の作風とは異なる挑戦的な楽曲が目立つ構成になっています。
一方、特に中盤では様々な作風のポップスも目立つ、バラエティーに富んだ作品になっています。「Dear My Dear」はピアノの弾き語りで切なく聴かせるポップス、「SA SO U」もピアノで軽快にスタートしつつ、後半は賑やかなミュージカル風に、「同じ穴のムジナ」では歌い上げるゴスペルの要素も感じる軽快なポップスに仕上がっています。
そんなソロならではの挑戦心に富んだ作品の中、特に耳を惹くのが「待ち空」でしょう。折坂悠太とのデゥオとなる本作は、ピアノをベースとした伸びやかで、和風のテイストを感じる郷愁感あふれる作風が大きな魅力。中納良恵作詞作曲のナンバーながらも、世界観や曲調も折坂悠太のボーカルにピッタリマッチしており、2人のボーカリストによる絶妙なハーモニーを聴かせてくれる非常に魅力的な傑作に仕上がっています。
ソロアルバムらしい、自由度あふれる内容になっており、EGO-WRAPPIN'とは異なる中納良恵の魅力を堪能できる傑作アルバム。ただEGO-WRAPPIN'の直近作「Dream Baby Dream」も、いままでのEGOと比べてバラエティーに富んだ作品になっていたので、中納良恵のソロでの活動が、ひょっとしたら反映されたのかもしれません。そんなこともあって今回のソロアルバムの内容も、次のEGOのアルバムにも反映されるかも。そういう意味では中納良恵のソロ、というだけではなく、EGOの今後の方向性も垣間見れるアルバムと言えるかもしれません。バラエティー富んだ作風に最後まで一気に楽しめた傑作でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Presence/STUTS&松たか子 with 3exes
STUTSの新作は、フジテレビ系ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の主題歌を収録した企画盤。このドラマでは、松たか子が歌モノ部分のボーカルを担当する「Presence」の様々なバージョンがエンディングとして毎回、起用されているそうで、本作は、そんなエンディング曲集を収録した作品。ちなみに「3exes」は同ドラマに登場する3人の元夫である岡田将生、角田晃広、松田龍平がコーラスとして参加。また松たか子のコーラスパートの歌詞とメロディーはシンガーソングライターのbutajiとの共作となっています。
その「Presence」自体は、松たか子がメインボーカルをつとめる歌モノのパートと、ラップ部分から構成される曲で、ある意味、一昔前に流行ったラップ+女性ボーカルのサビという着うた系ヒットの典型的なパターン。ある意味、「今さら」感もあるのですが、ただサウンド的には今風の爽快なサウンドが耳を惹き、メロディーラインもほどよく切なくインパクトのある楽曲になっており、非常に耳を惹く良質なポップソングとして仕上がっています。さすがに同じ「Presence」がバージョン違いとはいえインストを含め7曲も並んでいると、若干飽きてくるのですが、ただドラマを見ていなくても素直に楽曲を楽しめるアルバムに仕上がっていました。
評価:★★★★
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