ANARCHY is BACK!
Title:NOISE CANCEL
Musician:ANARCHY
純粋なオリジナルアルバムとしては、「BLKFLG」以来、約5年ぶりとなるANARCHYのニューアルバム・・・といっても2019年にアルバム「THE KING」(こちらは「フューチャリングアルバム」という位置づけでした)をリリースしているので、それ以来となるニューアルバムとなります。ANARCHYといえばデビューアルバム「ROB THE WORLD」、2枚目「Dream and Drama」が大きな話題となり、一躍注目のラッパーとなりました。
そんな彼も2014年になんとavexに移籍。アンダーグラウンドのラッパーというイメージも大きかった彼が、avexのようなメジャーレーベルに移籍したことにある種の衝撃を受けました。ただ、avexで「THE KING」を含む3枚のアルバムをリリースした後、avexとの契約を終了。本作はavexを離れてから初となる配信限定のアルバムとなります。
本作の大きな特徴は、まずANARCHYがはじめて、自らプロデュースを手掛けた作品であるという点。また、「フューチャリングアルバム」という位置づけだった前作「THE KING」から一転、客演なしの作品となったという点でした。さらに今回の「NOISE CANCEL」というタイトル、ヘッドフォンのノイズキャンセル機能を使って、雑音を聴いて集中して聴いてほしい、という思いからつけられたとか。それだけ彼の強い思いを感じさせます。
そんな集中して聴いてほしい、というサウンドは比較的シンプルな音数のビートがメイン。シンプルがゆえに彼のラップが生かされていますし、トラップの影響を感じるトラックや、メロウなトラック、ダークなサウンドなどバラエティーがあって聴かせます。特に「奇跡」ではギター1本の静かなフレーズを聴かせつつ、ラップを重ねるというナンバー。静かに奏でられるギターの音色も印象的ですし、そこに重なる力強いANARCHYのラップも印象に残る楽曲になっていました。ちなみに本作のトラックは、なんとRIZEのJESSEが担当しています(おそらくギターも彼でしょう)。
力の入ったトラックも印象的ですが、本作でそれ以上に力が入っていたのがリリックでした。ANARCHYといえば、自らが生まれ育った地域のリアルをそのまま描いたリリックが大きなインパクトを持って受け止められました。特に彼がデビューした頃、「下流社会」という言葉が登場。彼の描いた地元は、まさにそんな「下流社会」のリアルを描いており、厳しい現実を描いたリリックが彼の大きな特徴ともなっていました。
しかし、avex移籍後の彼の作品からは、そういったリアリティーあるリリックは薄れ、良くも悪くも、もっと「マス」をターゲットした曲が増えたように感じます。その結果として彼の持ち味が薄れ、正直なところ、avexでリリースされた彼のアルバムはいずれも今一つな出来だった、ということは否めませんでした。
そんな彼のリリックですが、本作では一転、再び彼の「リアル」がストレートに表現されたリリックになっています。1曲目「Nice kicks」は、買い物の楽しさを綴った・・・というシンプルでほほえましさがありつつ、彼のある種のリアルがしっかりと描かれている作品からスタート。そして中盤「la familia」は、彼が生きる世界をストレートに描いた、ギャングスタ風の歌詞が印象的。さらに本作で一番印象的な歌詞と言えるのが「I'm here」と「Dog town」の流れ。「I'm here」は彼の住む街から出て行った仲間に対する哀別。街から出て行き、別の道を歩みだした仲間に対して「俺はいつでもここにいる」というメッセージを送っています。
そして、この「I'm here」と対極的と言えるのが「Dog town」。「抜け出したい 抜け出したい/俺は育った街が大嫌い」からスタートする本作は、ひょっとしたら「I'm here」で街を出て行った仲間の視点なのかもしれません。本作は、まさに彼の生まれ育った地域のリアルを描いたリリックが強いインパクト。特に
「日本にゲトーはない
世間知らずの幸せ者が言うんだ
銃が無くても人は死ぬんだ
100万くらいで簡単に」
(「Dog town」より 作詞 ANARCHY)
というリリックは、今の社会の「世間知らずの幸せ者」に対して衝撃を与えるような、かなりヘヴィーな切り口の内容になっています。
まさに、デビュー当初のようなANARCHYのリリックの世界が戻ってきた本作。まさにANARCHY is Back!!と叫びたくなるような内容になっていました。さらにそんな印象的なリリックのとどめをさすのがラストの「Lisa」。おそらくかつての恋人に向けたメッセージで、「何も無かったあの頃は幸せだったな」と切なく綴るリリックが胸をうちます。特に
「夢は叶ったはずなのに
胸が痛い
まだ
あの日から今
なんにも変わらない物を
僕は探してた」
(「Lisa」より 作詞 ANARCHY)
というリリックは、ひょっとしたらavexというメジャーレーベルに移籍し、それなりに成功を収めた彼が、今感じる心境をそのまま綴ったのかもしれません。それだけ最後の最後に非常に胸にグサリと突き刺さるような内容になっていました。
avex移籍後の彼が失ったものを、本作ではすべて取り戻した感のある傑作アルバム。ノイズキャンセル機能のヘッドフォンで集中して聴きたいのはトラックももちろんですが、それ以上にこの彼の思いのつまったリリックなのかもしれません。年間ベストクラスの傑作だと思いますし、ANARCHYの底力をあらためて感じさせる内容だったと思います。前作「THE KING」はその売り方で若干ケチがついてしまったアルバムでしたが、そこで落としてしまった評判をしっかりと音楽で倍返ししてきた、そうとも感じさせてくれる傑作でした。
評価:★★★★★
Anarchy 過去の作品
Dream and Drama
Diggin' Anarchy
DGKA(DIRTY GHETTO KING ANARCHY)
NEW YANKEE
BLKFLG
THE KING
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2021年」カテゴリの記事
- コンセプト異なる2枚同時作(2021.12.27)
- 彼女のスタイルを貫いたカバー(2021.12.18)
- メランコリックなメロが良くも悪くも(2021.12.13)
- リスタート(2021.12.06)
- 戦時下でも明るいジャズソングを(2021.12.05)
コメント