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2021年7月18日 (日)

コロナ禍でも強烈な主張で

Title:NINGEN GOKAKU
Musucian:あっこゴリラ

Akko

女性の本音をストレートに綴ったラップが大きなインパクトとなっている女性ラッパー、あっこゴリラの最新作はミックステープという形で配信リリースされた作品。ある意味、ミックステープによる配信ということで、変な忖度抜きにして、彼女の叫びをストレートに表現できた、ということかもしれません。今回もまた、かなり強烈なメッセージ性あるアップがつまった作品になっています。

まず強烈なのが冒頭の「TOKYO BANANA 2021」。彼女の1stアルバムの表題曲「TOKYO BANANA」の2021年バージョンというこの曲。「自己啓発 陰謀論 手まねきする」「正義のヒーローさえ勝ち負けの奴隷」と東京の現状を皮肉りつつ、「でもワクワクは止まりません!」「俺のど真ん中にいくぞ」と前向きな歌詞も同時に見られるこの曲。東京という大都会に対する悲喜こもごもの感情を、彼女なりに詰め込んだ曲、と言えるかもしれません。

そして注目したいのが「SayHello」。こちらは非常事態宣言で外出もままなかなかった昨年の5月に配信リリースされた曲。「コロナ禍で今、吐き出したいこと」をテーマに制作したZINE(=個人やグループが自由な手法、テーマで制作した冊子)「#SayHello」に収録された楽曲。こちらもある意味、コロナ禍の中でのフラストレーションを歌詞にストレートに反映させたような内容。今よりも、より閉塞感が強く、イライラがたまっていた昨年5月頃の状況が伝わってくる(そして、今でも通用する)歌詞が印象的です。

さらにエロ歌詞の「神器dig it」も印象的。おそらく自慰行為をテーマとしていると思うのですが、かなりドギツイ表現も聴かせつつ、こういうネタでストレートにラップするのも彼女ならではといった感じ。そして忘れてはいけないのがMoment Joonをゲストとして迎えた「DON'T PUSH ME」。出だしからしてかなりストレートで

「怒ったらダメ
この国じゃ負け
言いたいこと言えば貼られるラベル
泣いたら負け
『女だからって許されるとは思わないでね?』
上司ほくそ笑む」
(「DON'T PUSH ME」より 作詞 あっこゴリラ/Moment Joon)

と、ストレートに感情むきだしに表現することが嫌がられる日本の現状を鋭く描写するなど、日本で生きることの窮屈さを描き出しています。

そんな現状に対するフラストレーションをむき出しにラップで表現しているあっこゴリラ。トラックもそんなフラストレーションをストレートに反映するような、強いビートのエレクトロサウンドがメイン。レゲエ的なリズムを入れつつ、彼女のドスを効かせたような力強いラップも印象的ですし、何よりも彼女のラップスタイル、サウンド、歌詞が見事にマッチした楽曲になっています。

もっともそんなラップを通じて、彼女自体、必ずしも怒りを表現しているだけではなく、そもそも今回のアルバムに関して、彼女はこのようなコメントを残しています。

「自分も他人も社会も矛盾もクソもぜんぶ目を逸らさないで向き合って、そのうえでまるごと愛したくて、ジタバタした記録たちを詰め込みました。

あわよくば、そのプロセスごと美しいって証明したくて、「NINGEN GOKAKU」なんてタイトルにしました。」

この「NINGEN GOKAKU」というタイトルも含めて、ある意味、フラストレーションの中で生きる人たちの感情をそのまま受け入れ、愛情をもって包み込む、それが彼女のスタイルであり大きな魅力と言えるでしょう。

ただ一方で、以前の彼女の作品から気になっているのですが、そんなストレートな表現のラップなのですが、いまひとつ、「これ」といったフレーズが前に出て来ておらず、インパクトが弱い点が今回も気になってしまいました。「DON'T PUSH ME」も、むしろMoment Joonのラップの部分がより目立ってしまっている感も否めず。聴き終わってから、歌詞を確認するとあらためてその主張に触れることが出来るのですが、ラップを聴いている最中だと、どうも言葉のインパクトが薄く感じてしまう・・・そんなマイナスポイントは正直今回の作品でも感じてしまいました。

またトラックについても、ラップの主張にマッチしているとは、若干一本調子なのが気になるところ。もうちょっとバラエティーがあった方がおもしろいとは思うのですが・・・バラエティーがあればよいという訳でもないので難しいところなのですが。

そんな感じで、彼女の独特の主張が楽しめる反面、以前から気になっていた弱点は本作でも感じてしまった、そんな作品になっていました。ただ、これだけストレートに主張を表現する女性ラッパーは日本ではほとんどいないだけに、もっともっと期待したいところ。まだ彼女の強烈な主張は続きそうです。

評価:★★★★

あっこゴリラ 過去の作品
GRRRLISM
ミラクルミーE.P.

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