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2021年7月20日 (火)

コロナ禍の中での新作

Title:moana
Musician:踊ってばかりの国

前作から約1年半ぶりとなる踊ってばかりの国のニューアルバム。前作からはさほど長いスパンのあるアルバムでないのですが、このコロナ禍の中で、彼らとしては苦労の末に生み出されたアルバムになっていたそうで、特にいままでの楽曲はライブの中で徐々に完成していく、というのが彼らのスタイルだったのえすが、コロナ禍の中でライブが行えず。そんな中、メンバーの間でいままでにない状況の中、試行錯誤していき、ようやく完成されたのが今回のアルバムだったそうです。

さて、いつもサイケデリックなサウンドを聴かせる彼らですが、今回のアルバムは特にサイケな感じの強いアルバムに仕上がっていたように感じました。冒頭の「Hey human」から、ドリーミーでサイケ感の強い楽曲になっていますし、続く「Notorious」もドリーミーな感触の作品になっています。

その後も「Mantra song」「風」とサイケな作風の曲が並び、最後を締めくくる「ひまわりの種」もサイケなギターサウンドで埋め尽くされている楽曲で締めくくられています。もっとも、決してサイケ一辺倒といった感じでもなく、爽やかなギターサウンドでフォーキーに聴かせる「Hello good-bye」やループするサウンドを聴かせる「凪を待つ」、ダウナーなサウンドでアングラフォークといった様相の「I was dead」などバリエーションも豊富。今回の作品は、逆にライブという形ではなく、みんなで試行錯誤した結果生まれた楽曲になっていたからこそ、これだけのバリエーションに富んだ作品が生まれたのかもしれません。そういう意味ではコロナ禍でライブが出来なかったことは必ずしも本作に関してはマイナスに働かなかったどころか、新たな可能性を広げた結果になったようにも思います。

そしてもうひとつ特徴的だったのが、そんなバラエティー富んだ作風の中で、意外なほどメロディーラインはポップにまとまっていたという点でしょう。「Lemuria」も爽やかなポップスを聴かせてくれますし、フォーキーでポップなメロを聴かせる「Hello good-bye」のような曲もあったり、さらに「Orion」もポップで爽やかと、意外とポップな曲も目立っていました。

さらに今回のアルバム、コロナ禍からの影響を感じさせる点がもうひとつありました。それは歌詞の世界。このどこか鬱々とした現状の中で、彼らの描く歌詞の世界も、どこかデストピアを彷彿とさせるような世界観が見て取れました。

「神様が死んだ後は大体想像がついて
憎しみ争いが残って太陽も朽ちて
人間は現実を捨てて電波と
チューブに繋がれて
何も愛さなくなって
空の色も捨てて」
(「風」より 作詞 下津光史)

なんて、まさにデストピア的な歌詞ですが、一方でどこか今の世界の現状を描写したようでもありますし、

「MayDay 地球の皆様へ
青い星はもう壊れて
すでに手遅れです」
(「メーデー」より 作詞 下津光史)

なんて歌詞も登場してきたりします。ただ一方で

「死に絶えたはずだった音楽が
今目の前に」
(「Hey human」より 作詞 下津光史)

と歌う「Hey human」は、まさに今のコロナ禍の中での音楽の希望を歌ったような感もありますし、

「争いをやめた優しい人達は
虹の風掴んで
死者を弔った
上空を汚す爆撃機に
立てた中指
僕は土を強く踏んだ
唱えたマントラ」
(「Mantra song」より 作詞 下津光史)

という「Mantra song」の歌詞にもデストピアの中で強く生き抜く彼らの姿に未来の希望を見て取れます。

このコロナ禍の中、現在の状況を作品に強く反映させたアルバムは少なくありませんが、このアルバムも、彼らなりにコロナ禍のリアルが作品にしっかりと反映された作品になっていたように感じました。もちろん、今回のアルバムも文句なしの傑作アルバム。ただ、次はやはり再び、ライブが問題なく行えるようになって、以前の彼ららしい制作過程で新作がリリースできればいいのですが。

評価:★★★★★

踊ってばかりの国 過去の作品
グッバイ、ガールフレンド
世界が見たい
SEBULBA
FLOWER
踊ってばかりの国
サイケデリアレディ
SONGS
君のために生きていくね
光の中に


ほかに聴いたアルバム

A LONG VACATION 40th Anniversary Edition/大滝詠一

日本を代表するポップミュージシャンであり、日本のポップスシーンに数多い爪痕を残しながらも2013年に65歳で急逝した大滝詠一。その彼が1981年にリリースした、これまた日本のポップスシーンを代表する名盤「A LONG VACATION」。節目節目に記念盤がリリースされていますが、今年はその40周年ということで、「40th Anniversary Edition」がリリースされました。

その本体自体はポップスの名盤中の名盤であり、いまさら説明するまでもありません。今回は新たなマスターテープからリマスターされた、2021年の最新音源を利用しているそうです。さらに今回注目したいのがDisc2。大滝詠一自らがDJのスタイルにより、「A LONG VACATION」がいかに誕生したかを語る「Road to A LONG VACATION」という企画で、「A LONG VACATION」収録曲の元となった、他のミュージシャン等への提供楽曲やデモ音源などが収録されている、非常に貴重な音源集となっています。「A LONG VACATION」の名曲の数々が、実はいろいろな提供楽曲等を再構築して出来上がったというのは、とても興味深く、楽しむことが出来た音源になっていました。

そんな中で本筋とはちょっと異なるのですが、興味深かったのは、1980年頃に声優ブームが起きていて、声優のアイドルグループに楽曲を提供して、それが「恋するカレン」の元曲になったというエピソード。てっきり声優がアイドル的な扱いを受けたのは、90年代くらいからかと思っていたのですが、もっとはるか昔から、アイドル的な人気があったんですね・・・。ちなみにそのグループはスラップスティックというグループだったらしいのですが、調べてビックリしたのはそのメンバー。古川登志夫、古谷徹、三ツ矢雄二、神谷明と、今となっては超大御所の面々が名前を連ねていました。意外な過去ですね(アニメマニアには周知の事実なのかもしれませんが)。

本編はもちろんのこと、40周年ならではのボーナスディスクも楽しめるアルバム。ただおそらくこれからも50周年、60周年とリリースされ続けるんでしょうね。間違いなく、今後も日本のポップスの名盤として燦然と輝き続けるであろう名盤です。

評価:★★★★★

大滝詠一 過去の作品
EACH TIME 30th Anniversary Edition
Best Always
NIAGARA MOON -40th Anniversary Edition-
DEBUT AGAIN
NIAGARA CONCERT '83
Happy Ending

MASS/the GazettE

彼らにしてはちょっと久しぶり、約3年ぶりとなるニューアルバム。前作「NINTH」もハードコア寄りにかなりシフトした作品となっていましたが、今回も前作に引き続き、ヘヴィネスさが前面に押し出された作品になっています。結果として、ヴィジュアル系らしい、耽美的な雰囲気のメランコリックなメロと、デス声も用いたヘヴィーな楽曲が上手く融合され、the GazettEらしさがより明確になった作品になっていました。個人的には、いままで聴いた中では一番の良作だったような感じも。ハードコアリスナーにも十分お勧めできる1枚です。

評価:★★★★

the GazettE 過去の作品
TRACES BEST OF 2005-2009
DIM
TOXIC
DIVISION
BEAUTIFUL DEFORMITY
DOGMA
TRACES VOL.2
NINTH

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