「バイエル」ここに完結(ひとまず)
Title:バイエル
Musician:ドレスコーズ
以前、ここでも紹介したドレスコーズこと志磨遼平の「成長するアルバム」である「バイエル」。4月に配信オンリーで、インスト版の「バイエル(Ⅰ.)」がリリースされ、さらに同じ月にピアノ弾き語りオンリーで歌も載せた「バイエル(Ⅱ.)」がリリースされました。本作はそれに続く第3弾。ほぼピアノのみの弾き語りだった「(Ⅱ.)」がさらに進化し、バンドサウンドなども加わり、本作で「バイエル」シリーズはひとまずの完結となったそうです。
事実上第3章となる本作はCDのパッケージという形でのリリースとなり、「バイエル」の完成版と言える内容。ほぼピアノ弾き語りだった「(Ⅱ.)」からバンドサウンドが加わり成長した形になっていますが、ただ楽曲によってその「成長の度合い」に差があります。例えば1曲目「大疫病の年に」はもともと「(Ⅱ.)」からオルガンで荘厳な雰囲気のアレンジになっていたのですが、こちらに関しては本作でもアレンジにあまり差はありません。「はなれている」も「(Ⅱ.)」からベースラインが加わったものの、基本的には「(Ⅱ.)」のアレンジを踏襲したつくりになっており、大きな差はありませんでした。
後半の「しずかなせんそう」なども「(Ⅱ.)」のデモ音源風のシンプルな弾き語りアレンジが、そのまま「完成形」となっていますし、「不要不急」も、基本的にピアノ弾き語りがそのまま「完成形」に。ここらへんはシンプルな「(Ⅱ.)」のアレンジが、楽曲にもっとも合っていた、という判断でしょうか。
もちろん、大きな進化を遂げていた曲もあり、具体的には3曲目の「ちがいをみとめる」。こちらはピアノ弾き語りから一転、分厚いバンドサウンドが加えられ、ウォール・オブ・サウンドの様相のある心地よいアレンジになっています。「(Ⅱ.)」ではデモ音源のようだった「不良になる」も、しっかりとバンドサウンドが加えられて、完成形へと進化していました。
ただ、そういった「進化」がしっかりとみられていた反面、アルバム全体としてはこの完成形でも比較的荒々しい、デモ音源っぽいアレンジといった感触の作品になっていました。特に「(Ⅱ.)」からアレンジがほぼそのままだった曲も少なくありませんでしたし、後半になるにつれて、そのような「そのまま」の曲が目立つようになり、正直、若干「ネタ切れ??」とすら感じてしまう部分もありました・・・。
もっとも今回のアルバム、志磨遼平としてもあくまでもシンプルな「メロディー」と「歌詞」を重視した結果、アレンジの部分はシンプルで、時として「デモ音源」的な部分もある弾き語りのアレンジが最適、と判断したのかもしれません。実際、大きな進歩を遂げた「ちがいをみとめる」や「不良になる」にしても、バンドアレンジがより「メロディー」や「歌詞」にマッチしているように感じましたし、逆に上記のように「不要不急」や「しずかなせんそう」はシンプルなアレンジがゆえに、より「メロディー」や「歌詞」がつたわってくるアレンジになっていたように感じます。
実際、今回の「バイエル」は、以前の感想でも書いた通り、メロディーは狂おしいほどの美メロが並んでおり、歌詞にしても、このコロナ禍の中でのミュージシャンの叫びのような歌詞が並んでいます。そういったメロディーや歌詞を生かすため、このアルバムのようなシンプルなアレンジをほどこすというのは、方針として大成功だったのではないでしょうか。
ちなみに本作、初回盤ではDisc3で「こどものバイエル」と題して、この「バイエル」収録曲の中の何曲かを児童合唱団の歌により収録した曲が並びました。こちらも子供の曇りのないシンプルな声が楽曲に非常にマッチ。楽曲のもともと持つシンプルなメロディーの良さが際立つアレンジになっていました。また、初回盤ではDisc2として、「バイエル(Ⅰ.)」が収録。ただ、残念ながら「(Ⅱ.)」については配信も終了し、現在、既に聴く手段がありません・・・ここらへん、「(Ⅰ.)」もそうだけど、成長の過程として聴き比べるためにも、配信は残しておいてほしかったな・・・。この点は非常に残念です。
この成長していくアルバムというユニークな企画である「バイエル」ですが、これで完結。ただ、今後はライブなどの中でさらなる進歩を遂げるかも、という話です。せっかくこのような形で成長してきた作品なだけに、さらなる進化を期待したいところ。次は是非、ライブなどで進化を遂げた曲を、ライブ盤なり取り直しなりで第4章としてリリースしてほしいなぁ。「バイエル」の物語は、まだまだ続きそう・・・・かも?
評価:★★★★★
ドレスコーズ 過去の作品
the dresscodes
バンド・デ・シネ
Hippies.E.P.
1
オーディション
平凡
ジャズ
バイエル(Ⅰ.)
バイエル(Ⅱ.)
ほかに聴いたアルバム
Superspin/KUZIRA
PIZZA OF DEATH所属の3人組ポップスパンクバンドの、フルアルバムとしてはこれが1枚目となるアルバム。今回、はじめて音源を聴いたのですが、勢いのあるパンクロックで、ちょっと切なくメランコリックなメロディーラインも魅力的。いかにもフェスで盛り上がりそうなタイプのバンドで、広い層に支持されそうなポピュラリティーがあります。コロナ禍の中ではフェスもままならない状況ですが・・・今後、さらに人気を伸ばしそうな予感のあるバンドです。
評価:★★★★
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