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2021年6月25日 (金)

音楽の幅がさらに広がる

Title:Cavalcade
Musician:black midi

最近、イギリスのロックシーンが活況を呈していて話題となっています・・・という話は、ここのサイトでも何度か紹介したことがあるかと思います。そして、おそらくそんな活況を呈するロックシーンの代表格のミュージシャンとも言えるのが彼ら、black midi。ここでも紹介した前作「Schlagenheim」が日本でも大きな話題となり、一躍注目のバンドの仲間入りを果たしました。本作は、それに続く2ndアルバムとなります。

そんな期待たっぷりで迎え入れられたアルバムですが、まずアルバムの冒頭を飾る「John L」が文句なしにカッコいい!「『Discipline』期のキング・クリムゾンを彷彿とさせる」という紹介のされ方をされているようですが、イントロのエッジの効いたダイナミックなエッジのサウンドからいきなりゾクゾクとさせられます。その後、複雑なリズムを奏でつつ、ダイナミックに展開されるバンドサウンドにラップ的なボーカルが乗ったアバンギャルドなサウンドが繰り広げられるのですが、途中、パッとサウンドが止まって静寂が展開される部分などもまさに鳥肌モノ。1曲目ながらもいきなりアルバムのハイライトとも言うべき傑作からのスタートとなっています。

このプログレ的な複雑な展開に、ダイナミックかつ緊張感あるバンドサウンドというのは前作でも感じた彼らの大きな魅力。その後も「Slow」「Dethroad」などでも同じように、サイケ的な要素を加味しつつ、ダイナミックなサウンドを聴くことが出来ます。ただ、今回のアルバム、前作と比べてバンドに大きな変化があったそうです。まず一つ目は楽曲の作成方法。いままではバンドによるジャム・セッションから楽曲を練り上げていく方法だったそうですが、コロナ禍によりその方法が取れなくなり、そのため、各自自宅で作曲を行い、楽曲を持ち合って作成する方法を取らざるを得なくなったそうです。そしてもう1点はメンバーの変化。オリジナル・メンバーであるギタリスト/ヴォーカリストのマット・ケルヴィンが、一時的にバンドから離れ、一方、ツアー・メンバーであったサックスのカイディ・アキンニビとキーボードがセス・エヴァンスをレコーディングに参加。その変化により今回、楽曲の幅がグッと広がっています。

具体的に言うと、セッション的なバンドサウンドがカッコいい「John L」に続く「Marlene Dietrich」は1曲目から一転、メロウな歌モノに変化。ストリングスも入って、しんみりと聴かせるナンバーになっています。さらに「Chondromalacia Patella」はファンキーなギターがカッコいい楽曲に仕上がっていますし、「Slow」でもサックスが加わりジャジーな雰囲気が強く感じられます。ラストを締めくくる「Ascending Forth」もアコースティックなサウンドでメランコリックな歌モノとなっており、彼らのメロディーメイカーとしての側面も感じられる楽曲となっています。

もちろんどの曲も複雑な楽曲構成やダイナミックなバンドサウンドなどblack midiらしい魅力は満載。前作もロックやサイケ、プログレなどの要素を感じさせましたし、本作でもそういったサウンドの要素を感じさせ、70年代の雰囲気もにおわせつつ、ただ、単純な70年代のリバイバルではない、彼らの魅力を強く感じます。本作はそれに加えて、ジャズやフォーク、歌モノ的な要素も強くなり、さらなる音楽的な幅を感じさせるアルバムになっていました。コロナ禍やメンバーの一時脱退は彼らにとって決してポジティブな要素ではなかったはずですが、それをバンドにとってプラスの要素と変えてしまったのはさすが。彼らのその実力を強く感じさせるアルバムに仕上がっていました。

前作に引き続き、またもや傑作アルバムだった本作。まだまだその注目度は日本でも上がっていきそう。これからの活躍がますます楽しみになってくる、そんな作品でした。

評価:★★★★★

black midi 過去の作品
Schlagenheim


ほかに聴いたアルバム

Reprise/Moby

ダンスミュージックで数多くのヒット曲を飛ばしてきたMobyの最新作は、そんな彼の楽曲をオーケストラアレンジでリアレンジした企画盤。ドイツの名門レーベル、グラモフォンからのリリースという力の入れようなアルバムになっています。オーケストラアレンジ自体は、良くも悪くも目新しさもなく、曲によってはちょっと大味かも、と思うような展開も予想通りなのですが、一方、ストリングスアレンジになったことにより、Mobyの楽曲がもともと持っていたメロディーラインの良さが、より際立つ内容に仕上がっていたように感じます。それだけに、最初はちょっと大味に感じたオーケストラアレンジの曲も、後半に行くにつれて徐々にはまっていって聴き入ってしまう内容になっていました。メロディーメイカーとしての彼の実力を再認識できた1枚でした。

評価:★★★★★

MOBY 過去の作品
Go:The Very Best Of Moby

Last Night
Wait for me
Destroyed
Innocents
These Systems Are Failing(Moby and The Void Pacific Choir)
Everything Was Beautiful,and Nothing Hurt
All Visible Objects

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