圧巻のステージパフォーマンス
コロナ禍で、ここ1年以上、映画館から足が遠のいていましたが、先日、久しぶりに映画を観てきました。まあ、純粋に見たい映画がなかったというのもありますが・・・。それが「アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン」。「ソウルの女王」と呼ばれたアレサ・フランクリンが1972年に行ったゴスペルコンサートの模様を収録したフィルムの待望の映画化となります。
もともと映画化を想定して行われたゴスペルライブなのですが、撮影現場でいわゆる「カチンコ」を使わなかったために音と映像の同期が上手くいかず、お蔵入りになってしまった作品。その後、技術的な問題は克服できたものの、今度はアレサ本人から許可がおりず映画化は断念されたものの、2018年にアレサが鬼籍に入ったことから映画化に向けて動き出し、撮影から40年以上の月日を経て、ようやくこのたび映画化されたといういわくつきの作品。ただし、ライブ音源のみは別途ライブアルバムとしてリリースされ、ゴスペルでは珍しいミリオンセラーを達成。現在でもアレサの・・・という枠組みを超えた「名盤」として知られる1枚となっています。
「カチンコ」を使うのを忘れるくらい、現場はバタバタしていたみたいで、その模様は映像にも残っています。ただ、この不慣れさゆえに、映像としては変に凝った編集もありません。一部、リハーサルの映像と本番の映像を重ねる試みはあるものの、基本的には当日のライブの模様をそのまま撮影して使用しているスタイルになっており、それが今となっては、当日の雰囲気がそのまま伝わってくる貴重な映像としての価値を高める結果となっています。
さて、肝心のライブパフォーマンスは2日間にわかって行われているのですが、まず気になるのはその会場の狭さ(!)。ちょっとした学校の体育館程度の広さしかありませんし、アレサも演壇の上で直立不動で歌うか、ピアノの弾き語りで歌うかという、比較的シンプルなパフォーマンスですし、バックの聖歌隊は椅子に座って歌っていますし、バンドメンバーは演台と観客席の間の狭いスペースに押し込められるように陣取って演奏を聴かせてくれています。それであれだけスケール感のあるパフォーマンスを聴かせてくれる点は驚くべき事実です。
パフォーマンスは主にアレサも敬愛するグリーヴランド師の司会を中心として進められます。彼も歌やピアノ演奏で参加しているのですが、その彼のパフォーマンスも非常にアグレッシブで特筆すべき内容ですし、バンドメンバーであるコーネル・デュプリー、チャック・レイニー、バーナード・パーディー、そしてケン・ラパーのパフォーマンスの素晴らしさ、バックのコーラスをつとめる聖歌隊の素晴らしさも言うまでもありません。
そしてもちろん一番印象に残ったのは言うまでもなくアレサ本人のパフォーマンス。普段、ソウルミュージシャンとして活躍してきた彼女が、その原点とも言えるゴスペルに挑戦したパフォーマンスということもあり、彼女の表情からはどこか緊張感も覚えますし、その歌声も普段以上に力が入っているように感じます。しかし、その身体のどこから出てくるんだ、と思われるような力強い、そしてそれだけ歌を張り上げながらも、音が一切ぶれない歌声に、まずは圧倒されます。そしてその一方でただ声を張り上げるだけではなく、やさしく聴かせる部分では特に、その表現力のある歌声に聴き惚れてしまうのではないでしょうか。そのボーカリストとしての実力をいかんなく感じられる映像に、終始くぎ付けされます。
特に1日目に関しては、序盤「Wholy Holy」などのバラードナンバーでじっくり聴かせつつ、中盤には「What A Frend We Have In Jesus」などで徐々にアップテンポに盛り上げ、会場の高揚感を高めつつ、ラストではおなじみ「Amazing Grace」を表現力たっぷりに力強く歌い上げるという展開には鳥肌すら立ってきます。最後の「Amazing Grace」ではあまりの圧倒ぶりに、グリーヴランド師が目じりをおさえて涙を流すというシーンが撮られているのですが、確かに私もあの現場にいたら、涙が出てきてしまうように感じました。実際、映画を観ているだけで目じりが熱くなってきましたし・・・。今回の映画、歌詞にも字幕がついているのでゴスペルの歌詞の内容もよくわかるのですが、確かにこうやって音楽で高揚感を高めつつ、歌詞にキリスト教の教えを織り込めば、神への帰依が深まるよなぁ、なんてことも感じてしまいました。
そして2日目のパフォーマンスの見どころといえば、なんと会場にローリング・ストーンズのミック・ジャガーとチャーリー・ワッツの姿が映っているという点。そして、アレサの父親であるC・L・フランクリンが会場に登場してくる点でしょう。アレサの父親のC・L・フランクリンも説教師として非常に有名な人物で、そのたたずまいからもただ者ならぬカリスマ性を感じます。途中、歌の間に彼の演説が入ってくるのですが、この演説も、私のような日本人でも、半分くらい意味がわかるような平易な英語表現をゆっくりとわかりやすく語りつつ、アレサの素晴らしさと父親として娘を思う気持ちを短い内容の中でうまく織り込んでくる素晴らしいスピーチとなっており、確かに説教師として人気を博した理由もよくわかります。その後、アレサがピアノの弾き語りをする中で、やさしくタオルで彼女の汗をぬぐってあげるシーンもあり、親子の関係が垣間見れる暖かいシーンも映し出されていました。
映画としては特にこれといった構成もなく、シンプルなコンサートフィルムといった様相の内容でしたが、だからこそ、当日のライブの雰囲気がそのまま伝わってくる素晴らしい、そして貴重な映像になっていた作品でした。どこまで劇場公開が続くかわかりませんし、コロナ禍の中ですので劇場に足を運ぶのを躊躇してしまう向きもあるかもしれませんが・・・しっかりと感染予防対策をしてぜひとも映画館で見てほしい作品だと思います。アレサのボーカリストとしてのすごさをあらためて痛感した作品でした。
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