パパ!お帰り!(刑務所から)
Title:Daddy's Home
Musician:St.Vincent
アルバムをリリースする毎に高い評価を受け、今や、最も注目されるシンガーソングライターの一人となった、ニューヨークはブルックリンを拠点に活動を続けるSt.VIncent。今回のアルバムは、収監されていた彼女の父親が2019年に出所したことをきっかけとして作成されたアルバムだそうで、「パパ、おかえり」というタイトルは刑務所からの帰還というのはなんともヘヴィーな・・・。
さて、St.Vincentというとアルバム毎にそのスタイルを変える点もひとつの特徴となっています。私が彼女の作品をはじめて聴いたのは、オリジナルアルバムとして前々作となる「St.Vincent」からでしたが、同作はギターサウンドを前に押し出した作風。前作「MASSEDUCTION」は社会派な様相の強い作品を収録しつつ、全体としてはエレクトロ色の強い作品に。さらに同作をアコースティックアレンジにガラリと変えた「MassEducation」なんていう作品もリリースしたりもしています。
そして今回の作品もガラリとその作風を変えています。エキゾチックなギターサウンドにのせて伸びやかに歌い上げる「Donw And Out Donwtown」やソウルフルなボーカルをけだるく聴かせるタイトルチューン「Daddy's Home」、サイケなギターをバックに哀愁感たっぷりに聴かせるゴスペル的な要素も入った「The Melting Of The Sun」に、ムーディーに聴かせる「The Laughing Man」など、前半は比較的ソウルやファンク的な要素の強い作品が並びます。
そうかと思えばガラッと変わるのがインターリュードを挟んで後半の「Somebody Like Me」。アコースティックギターのサウンドで爽やかなフォークチューン。さらに「...At The Holiday Party」もフォーキーなサウンドでメロディアスに聴かせるポップチューンになっています。前半の雰囲気との変化に驚かされますが、このようなバラエティー富んだ楽曲を1枚のアルバムに容易におさめることが出来るのも、彼女のミュージシャンとしての包容力があるからでしょう。
そんなバラエティー富んだ作風ながら今回のアルバム、どこか懐かしさを感じさせるのが、この作品が70年代のバラエティーに富んだニューヨークの音楽の影響を受けているから。「Daddy's Home」というタイトルの通り、彼女が子供の頃に父親と聴いていた想い出の音楽に影響を受けた、といった感じなのでしょうか。日本人にとって懐かしさを感じる昭和30年代的なサウンド・・・といった感じとは少々異なるのですが、それでも私たちにとってもどこか懐かしさを感じさせます。
とはいえ、決して昔ながらのサウンドそのままといった感じではなく、例えば1曲目の「Pay Your Way In Pain」は強いビートのエレクトロチューンとなっており、ここらへんは今風のサウンドといった感じ。全体的にもしっかり今風の音にアップデートしており、決して単純な懐古趣味といった感じに陥っていません。
今回も幅広い彼女の音楽性を感じさせる傑作アルバムに仕上がっていました。彼女のミュージシャンとしての懐の深さにはあらためて驚かされます。これから彼女からどんな音楽が飛び出してくるのか・・・まだまだとても楽しみです!
評価:★★★★★
St.Vincent 過去の作品
St.Vincent
MASSEDUCTION
MassEducation
ほかに聴いたアルバム
At The BBC/Amy Winehouse
2011年に27歳という若さで早世した、既に「伝説」と呼ぶべき立場になってしまった女性シンガーAmy Winehouse。本作は彼女がイギリスBBCに残した音源をまとめたアルバム。もともと2012年にリリースされたアルバムなのですが、そこに未発表音源を加えて全3枚組として再リリースした作品となります。ちょっとくすんだ感じの味わい深い声色で、感情たっぷりに力強く歌い上げる彼女のボーカルは、やはり今聴いてもかなり魅力的。あらためてわずか27歳でこの世を去ってしまったという事実が非常に残念で仕方ありません。今回追加されたDisc2、3の28曲についてもいずれも魅力的な音源ばかりで、2012年のアルバムを聴いていたとしても、あらためて聴きなおしたい作品。あらためて彼女のすごさを感じる作品でした。
評価:★★★★★
Amy Winehouse 過去の作品
Back To Black
LIONESS:HIDDEN TREASURES
Amy Winehouse at the BBC
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