ソングライターが2人になっても
Title:ENDLESS ARCADE
Musician:TEENAGE FANCLUB
90年代からシンプルかつ暖かみのあるメロディーラインでリスナーを魅了し、日本でも多くのファンを獲得。また多くのミュージシャンにも影響を与えているスコットランド・グラスゴー出身のギターポップバンド、TEENAGE FANCLUB。特にフロントマンであるノーマン・ブレイク、レイモンド・マッギンリー、ジェラード・ラヴの3人はいずれもソングライターとして才を持ち、それぞれが楽曲を提供。この3人ものソングライターを擁するというバンドとしての布陣もまた、彼らの魅力の大きな下支えとなっていました。
しかし、非常に残念なことに2018年、そのメインのソングライターの1人、ジェラード・ラヴが脱退を表明。メインライターのうちの1人を欠けてしまうという、バンドとしては危機とも言える状況になってしまいました。脱退の理由が「ツアー計画に関する意見の相違」だったそうで、30年近く一緒に活動を続けて、いまさら何を・・・とも思うのですが、年齢を重ねて身の回りの状況が変わるにつれ、いろいろな事情があるのでしょう。とても残念です。
とはいうものの、まだメインのライターが2人も残っているというのが、彼らの強みであることは間違いありません。今回、約4年ぶりとなるニューアルバムなのですが、キュートなポップスというTEENAGE FANCLUBの大きな魅力は、ジェラード脱退後初となるこのアルバムでも全く衰えていません。今回のアルバムでも、素直に楽しめるポップチューンが並ぶ傑作アルバムに仕上がっていました。
今回のアルバムはメインライターが2人になったということもあり、ノーマン、レイモンドの2人が全12曲入りのアルバムについて、それぞれ6曲ずつ楽曲を提供する形になっています。また、今回、ライターが2人になったことにより、ノーマンとレイモンドの2人の楽曲の相違がより明確になる構成に仕上がっていました。
レイモンドの楽曲はちょっとひねったようなメロディーラインでダウナーな雰囲気を感じさせる楽曲が特徴的。タイトルチューンである「Endless Arcade」もアップテンポで軽快な曲ながらも、どこか影を感じさせますし、「In Our Dreams」も微妙にひねくれたメロディーラインが魅力的。ラストを締めくくる「Silent Song」もメロウに聴かせるメランコリックなメロディーラインが大きな魅力に感じます。
一方で、ノーマンの楽曲は暖かく切なさを感じるメロディーラインに聴いていて思わずキュンとなってしまう作品が並びます。冒頭を飾る「Home」もまさにそんな暖かさを感じるポップソングの中に、絶妙な切ないフレーズが登場してくる点が大きな魅力ですし、テンポよいポップチューン「Warm Embrace」も祝祭色のある明るい曲調が大きな魅力。後半では「I'm More Inclined」も切ないメロで暖かいメロディーラインを聴かせてくれるのが大きな魅力となっていますし、続く「Back In The Day」もちょっと切ないメロが大きな魅力のミディアムチューンとなっています。
個人的にはノーマンの聴いていてキュンとなるメロディーラインが大きな魅力に感じるのですが、一方でそんなノーマンの曲とほどよくバランスさせて聴かせてくれるレイモンドの楽曲がアルバムにほどよいバラエティーを与えています。メインライターが2人になってもTEENAGE FANCLUBの魅力は間違いなく健在。今回のアルバムではそんな彼らの変わらぬ魅力を強く感じさせてくれました。
相変わらず魅力的なエバーグリーンの楽曲の数々がリスナーを終始魅了する傑作アルバム。聴いていて素直に楽しめる、全ポップス好きに聴いてほしいアルバムだと思います。今後は、メインライター2人を中心として、まだまだ活動を続けていくのでしょう。まだまだ数多くのグッドミュージックを私たちに届けてくれそうです。
評価:★★★★★
TEENAGE FANCLUB 過去の作品
Shadows
Here
ほかに聴いたアルバム
There is No End/Tony Allen
アフロビートの創始者、フェラ・クテイのバンドでドラムをつとめて、彼の右腕としても活躍したドラマー、Tony Allen。昨年4月、79歳でこの世を去りましたが、本作はそんな彼が最期に録音した遺作。御年79歳にしてリリースした作品なのですが、ただ、この年齢を感じさせない若々しさを感じさせるアルバムで、イギリスのグライムシーンを牽引するラッパーのスケプタや同じくアメリカで活躍するラッパー、ダニー・ブラウンなどをフューチャー。トライバルでファンキーなリズムを聴かせつつ、サウンド的にはむしろ「今風」と感じさせるような作品で、Tony Allenの音楽的な若々しさを感じてしまいます。正直、これが80歳手前のミュージシャンの作品とは信じられないほど。それだけにこれが最期というのは本当に残念。改めてご冥福をお祈りしたいと思います。
評価:★★★★★
Tony Allen 過去の作品
Rejoice(Tony Allen & Hugh Masekela)
Live At Knebworth 1990/PINK FLOYD
ピンクフロイドが1990年に行った、イギリスはネプワースコンサートでのライブの模様を収めたライブアルバム。全7曲入りのアルバムで、スケール感あるサウンドをメランコリックに聴かせるスタイルが印象的。とにかくライブ盤を通じて感じられる会場のスケール感がピンクフロイドのサウンドにもピッタリとマッチしており、圧巻でありつつ繊細さを感じさせるプレイはさすが彼らならではといった感じでしょうか。音も非常にクリアで、彼らのライブの魅力が味わえる作品でした。
評価:★★★★
PINK FLOYD 過去の作品
The Endless River(永遠(TOWA))
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