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2021年6月 4日 (金)

貴重な歴史的音源

Title:Sound Storing Machines(蓄音機)~日本最古の78回転レコード 1903-1912

今回紹介するアルバムは非常にユニークな1枚です。タイトル通り、1903年から1912年に録音された、日本最古の78回転レコードを収録した作品。ただし、リリースしたのは日本のメーカーではなく、シアトルの人気レーベル Sublime Frequencies。もともと「アジアのSP盤アンソロジー」と題して、韓国とミャンマーのSP音源をリリースしてきたそうですが、その第3弾として選ばれたのが日本。当サイトでも戦前のSP盤を収録したオムニバスは、SP盤専門レーベルの「ぐらもくらぶ」からリリースしてきた作品を含めて、多く紹介してきました。ただ、今回の音源はさらに時代をさかのぼった明治の音源。特に当時は日本に録音機材がなく、海外のレコード会社が録音技師から吹き込み機材一式まで日本に持ち込み、ホテルの一室などをスタジオ代わりにして録音した「出張録音」として録音していたそうです。明治期の大衆文化を音の側面から知れるという意味でも非常に貴重なオムニバス盤と言えるでしょう。

特に1曲目の「雅楽『陪臚(平調)』」は明治36年(1903年)2月にイギリスのグラモフォン社によって行われた日本最初の出張録音の作品の中のひとつ。本作には雅楽が収録されていますが、謡曲、狂言、義太夫、長唄など様々な芸能音楽を収録したそうです。雅楽に関しては全く知識がないのでよくわからないのですが、この演奏スタイルは今と変わらないのでしょうか?それとも、聴く人が聴けば、今のスタイルと微妙な違いがあるのでしょうか?

今回収録しているのは全15曲なのですが、このような雅楽が2曲、義太夫4曲、長唄1曲、俗曲2曲、法界節1曲、三曲1曲、落語1話、竹琴1曲、謡曲1曲とその当時の芸能音楽がほどよくバランスされて収録しています。うち義太夫の4曲というのが収録曲としては一番多いのですが、それだけ当時流行していたということのあらわれでしょうか。三曲というのも若干聴きなれないですが、琴、三味線、尺八の合奏のこと。法界節も明治20年代に大流行したジャンルのようで、その後衰退してしまったそうですが、明治時代の演説歌に引き継がれていったようです。

ただ、この中で耳慣れないジャンルながらも一番ユニークだったのが竹琴なるジャンル。もともと1886年に沼津の田中竹琴によって発明された楽器だそうで、一時期は皇太后・皇后の御前演奏という栄誉まで得たそうですが、日清戦争後に急速に衰退して、今や完全にすたれてしまった幻の楽器。しかし、その演奏する音色は、どこか東南アジアのガムランを彷彿とさせるようなエキゾチックで、和楽器の中では圧倒的な独自性を放っており、聴いていて非常に魅力的でした。これ、誰か復活させないかなぁ・・・?

またユニークかつ貴重な音源だったのが三代目柳家小さんによる落語「浮世風呂」。柳家小さんといっても、おそらく私たちがすぐ思い浮かぶ、人間国宝にまでなった名人は五代目ですので、その先々代。貴重な落語がおさめられているのですが、お話はほとんどなく、基本的に都都逸や義太夫を披露する「歌」の部分がメインになっています。ただ、その当時の名人の話がおさめられている非常に貴重な音源であることは間違いないでしょう。

さらにユニークだったのは吉原〆寿なる芸者が歌う俗曲「猫じゃ猫じゃ」。楽曲自体もユニークなのですが、おもしろかったのは曲間の曲紹介に彼女の笑い声が入っているところ。それもライナーツノートでは「うふふふ・・・」と可愛らしく書いてあるのですが、実態は、「ガハハハ・・・」に近いような豪快な笑い方になっています。ひょっとして、女性が「うふふふ・・・」なんて笑うのが可愛らしいと思うのは今の価値観で、明治期は女性も豪快に「ガハハハ」と自然体で笑っていたのでしょうか?

そんな訳で、明治期の日本の文化・風俗が音の側面から楽しめる非常に貴重な音源集。正直なところ、音はどれも悪く、素直に「音楽」を楽しむというよりは、貴重な音源を興味深く聴いて、その向こう側にある明治期の暮らしに思いをはせるというのが正しい聴き方だと思います。そういう意味では音楽的に万人にお勧めといった感じではないのですが、興味があれば是非。当時の貴重な演奏が楽しめた1枚でした。

評価:★★★★

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