ジャズにとどまらない音楽性が魅力的
Title:Black To The Future
Musician:Sons Of Kemet
イギリスはロンドンを拠点に活動する4人組ジャズバンド、Sons of Kemetの約3年ぶりとなるアルバム。このバンドの中心人物となるシャバカ・ハッチングスは、ジャズサックス/クラリネット奏者として名をはせるのみならず、ソングライター、哲学者、さらには作家としても幅広い活動を見せる、今のイギリスのジャズ界の最重要人物と言われるミュージシャンだそうで、本作も大きな注目を集めている1枚のようです。
ただ「ジャズ」というカテゴライズされる本作ですが、「ジャズ」というジャンルでくくってしまうにはかなり異質な作品。そもそも、バンドメンバーからして、テナーサックス、チューバにツインドラムというかなり珍しい構成になっていますし、「For The Culture」ではグライムMCのD Double Eが参加するなど、そもそもジャズというカテゴリーに留まらない方向性を感じます。
実際楽曲も「Pick Up your Burning Cross」はアフロビートの要素を強く感じますし、「Think Of Home」もジャズ的な要素を感じつつ、アフロサウンドやダブの要素も同時に感じさせる作品に。さらに後半はラテンからの影響が顕著で、ラテンの軽快なリズムが印象的な「In Remembrance Of Those Fallen」、同じく軽快なラテンパーカッションとムーディーなホーンセッションが耳に残る「Let The Circle Be Unbroken」などが続きます。
さらにラストの「Black」はアバンギャルドなサウンドに迫力あるシャウトが重なるナンバー。全体的にはツインドラムのサウンドもあってかなりダイナミックなサウンドとなっており、ジャズの要素はもちろんのこと、アフロビートやHIP HOP、ラテンにさらにはポストロックまで内包するような音楽に仕上がっています。ある意味、いかにも「ジャズ」的なものを求めたとしたらちょっと調子が狂うかもしれませんが、むしろ個人的には、ジャズに留まらない幅広い音楽性に耳を奪わせ、さらにアフロビートやラテンのサウンドに強く魅了されました。
そして今回のアルバム、彼らの強いメッセージも備えたアルバムになっているそうで、特に昨年大きな話題になったBLMにリンクするような作品になったそうです。歌詞自体は残念ながら日本人の私たちにとってストレートに訴えるものではありませんが、このジャケットや、「Black To The Future」というアルバムタイトル。さらには「Throughout The Madness,Stay Strong」や「Black」といったようなタイトルに、焦燥感のあるシャウトやラップ、またアフロビートやラテンといったアフリカのルーツ志向的な作風からも、彼らのメッセージは十分伝わってくるようにも思います。
ちょっとくすんだ怪しげな雰囲気も非常にカッコいいですし、彼らのメッセージも突き刺さってくるような作品。ジャズに留まらずロックやアフロビートが好きな人にも受け入れられそうな傑作でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Music for Living Spaces/Green-House
ロサンジェルスを拠点に活動し、高い評価を受けているアンビエントミュージシャン、Green-Houseによる初となるフルアルバム。シンセで静かに聴かせるアンビエントの作品が並んでおり、清涼感あるサウンドが魅力的。途中、虫の声らしきものも収録されているなど、自然の中を感じさせる作風に、聴いていて心も安らぐ作品になっています。
評価:★★★★
Six Songs for Invisible Gardens/Green-House
で、こちらは同じくGreen-Houseの、昨年リリースした6曲入りのミニアルバム。「Music for Living Space」のリリースを機に、CDリリースされたようです。こちらは明確に、水の音や波の音、鳥の声などが入っている、自然の音を生かしたアンビエント作。自然の音色に静かに耳を傾けると、心が安らいでくる、そんな作品でした。
評価:★★★★
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