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2021年6月 8日 (火)

平井堅は「誰」になりたかったんだろう?

Title:あなたになりたかった
Musician:平井堅

デビュー25周年を迎えた平井堅の約5年ぶりとなるニューアルバム。正確にはデビューが1995年のため、25周年は2000年となるのですが、一応、デビューした2000年5月から今年の5月までが「デビュー25周年」という位置づけなのでしょうか?また彼はデビューからブレイクまでに比較的長い期間のあり、「楽園」でのブレイクまで5年が経過しているのですが、それでも「楽園」のヒットからもう20年になるのですか・・・月日が経つのは早いなぁ・・・。

さて、そんな久々となるニューアルバムは、いかにも平井堅らしさを感じる楽曲と、新たな彼の挑戦の感じさせる曲が並ぶ作品となっていました。特に彼の新たな挑戦としてエレクトロサウンドへの挑戦が顕著に感じ去られる本作。「怪物さん」では今をときめくあいみょんとのコラボの作品で、メロディーラインや歌詞は平井堅らしさを感じる作品ではあるものの、アレンジはリズミカルなエレクトロチューンに。「1995」では、なんと水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミがアレンジャーとして参加。エキゾチックでユーモラスなエレクトロアレンジになっており、どこかコミカルにサンプリングされたボーカルが楽しいアレンジになっています。「ポリエステルの女」もボーカルにエフェクトが加えて、新たな効果を生み出そうとしている挑戦的な作品。平井堅の新たな可能性を感じさせるポップチューンが並びます。

一方で、そのほかの楽曲に関しては、いかにも平井堅らしい楽曲が並んでいます。「ノンフィクション」も切ないアコースティックアレンジのラブソングが彼らしさを感じますし、「#302」は切ない片思いの曲で、名曲「even if...」を彷彿とさせる楽曲になっています。「いてもたっても」も、エレクトロアレンジは目新しい感もあるのですが、こちらも切ない片思いの歌詞が平井堅らしさを強く感じさせる楽曲。ピアノをバックにしんみり歌い上げる「half of me」も「瞳をとじて」あたりを彷彿とさせる平井堅の王道路線とも言うべきバラードナンバーに仕上がっています。

そんな感じで、平井堅らしさを感じさせる王道路線の曲と、新たな彼の可能性を感じさせる挑戦的な曲がほどよいバランスで並んでおり、いい意味でバランスの取れた作品に仕上がっていました。ただ若干気になるのは、その王道路線の曲があまりにベタで二番煎じ的なものを感じさせる点。「#302」なんて完全に「even if...」の二番煎じ的な部分は否定できませんし、そのほかの曲も「どこかで聴いたような…」という印象も感じさせました。

また今回のアルバムでちょっと気になってしまったのはAmazonのレビューコメントなどを見る限り、彼の新たな方向性に否定的なスタンスのレビューコメントも目立ってしまうあたり、彼のファンの保守性が目立ってしまっていることが気になりました。トップレビューなんかで「『楽園』の頃に戻ってほしい」なんてコメントをした人がいるんですが、今回の平井堅らしさを感じる楽曲を聴く限りでは、彼にR&B志向はあまり強くないのは明白であり、この20年間、何を聴いてきたんだろう・・・と感じてしまいます。

そんなことを考えつつ気になるのが今回の「あなたになりたかった」というアルバムタイトル。平井堅はじゃあ、誰になりたかったんでしょうか?平井堅といえば「瞳をとじて」に代表されるような、ある意味J-POPの王道的なポップソングを歌いシンガー、といったイメージがあります。また、Amazonのレビューコメントに代表するようにファンも、そんな保守的な像を望んでいる部分も否定できません。それに対して、今回のアルバムで挑戦的な作品を歌うことにより、そのイメージを崩す、ミュージシャンとしての幅広さをアピールしたかったのでしょうか。例えばKANだったり、あるいは奥田民生だったり、王道の路線を貫きつつも、実験的な作風もファンに許容されるシンガーソングライターも少なくありませんが、ひょっとして今回のアルバムでは平井堅は、そういう幅広い作風も許容されるような懐の深いシンガーソングライターになりたい・・・そういう思いがあったのだろか、そう感じてしまいました。

今回の挑戦が次回作以降、どのように反映されるか、楽しみでもあり、またファンがそれにどのように反応するのか不安な部分もあります。また今回のアルバムでも、王道路線の曲が若干ベタすぎるという意味で、決して彼もシンガーとして勢いがある訳でもなく、次回以降の展開が気にかかる部分もあります。そういう意味でこれからの活躍がいろいろな側面で要注目です。

評価:★★★★★

平井堅 過去の作品
FAKIN' POP
Ken's Bar II
Ken Hirai 15th Anniversary c/w Collection '95-'10 ”裏 歌バカ”
JAPANESE SINGER
Ken's Bar III
THE STILL LIFE
Ken Hirai 20th Anniversary Special!! Live Tour 2016
Ken Hirai Singles Best Collection 歌バカ2


ほかに聴いたアルバム

I SING/Crystal Kay

2019年にはミュージカルへの挑戦はあったものの、ミュージシャンとしての新譜はなく、若干、どうしたんだろうといった感もあったCrystal Kayですが、久々となる新作は彼女初となるカバーアルバム。それもちょっと意外なことに、取り上げた楽曲はベタベタなJ-POPのヒットソングが並びます。彼女の歌唱力からすると、もうちょっと本格的なR&Bナンバーのカバーも聴きたい気もするのですが・・・。

またカバーにしても、基本的にはR&Bという自身の枠組みに当てはめたようなカバーが多く、結果としてそれがピッタリとマッチしたカバーと違和感のあるカバーにわかれたように思います。今一つとしては、1曲目のスピッツ「楓」。シンプルなポップソングが無理やり感情たっぷりに装飾されたようなカバーとなっていて、聴いていてガクッと来てしまいました。ただ一方、非常に良かったのがOfficial髭男dismの「I LOVE...」で、この曲がもともと持っているソウル的な要素を上手く引き出しており、見事なカバーに仕上げています。もともとR&Bやソウル的な要素のある曲は上手くカバーしていたのに対して、そのような要素が薄い曲に関しては違和感の残るカバーだったように感じます。そういう意味では曲によってスタイルを変えるという器用なシンガーではないのかもしれませんが(もっとも、ワザとR&B風に仕上げた可能性も高いですが)歌唱力は文句ないだけに、やはり本格的なR&Bのスタンダードナンバーのカバーが聴きたいかも。

評価:★★★★

Crystal Kay 過去の作品
Shining
Color Change!
BEST of CRYSTAL KAY
THE BEST REMIXES of CK
FLASH
Spin The Music
VIVID
Shine
For You

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