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2021年5月13日 (木)

カオスなサウンドの中にポップなメロが

Title:ULTRAPOP
Musician:The Armed

最近、イギリスでもアメリカでも、次々と勢いのあるロックバンドが話題となっているような印象を受けます。今回紹介するバンドもそんなバンドの一組。アメリカはデトロイト出身のハードコアバンド、The Armed。デビューは2009年ですので、バンドとしては既に「中堅」の域に入っているバンドですが、デビュー作から一貫してダウンロードでのリリース+アナログ盤というリリース形態を貫いてきました。そしてフルアルバムとしては4作目となる本作で、はじめてCDでリリース。だから、という訳ではありませんが、本作も各所で高い評価を受けており、私もはじめて彼らのアルバムを聴いてみました。

彼らはいわゆるハードコアバンド、さらには「カオスティック・ハードコア」と呼ばれるそうで、ヘヴィーでノイジーなギターサウンド、力強くダイナミックなバンドサウンド、シャウト気味のボーカルというサウンドの中に、さらにエレクトロサウンドを加えてくるという楽曲を展開。まさに「カオスティック」という表現がピッタリとくるハードコアなサウンドを聴かせてくれています。

ただ、そんなサウンドを主軸にしつつ、今回のアルバムのタイトル「ULTRAPOP」。この表現は決して皮肉でもなんでもなく、所々に狂おしいほどのポップな要素を入れてくるというのが、本作の大きな特徴でした。タイトルチューンの1曲目「ULTRAPOP」などがまさにそう。アルバムのイントロ的な役割も果たす本作は、ミディアムチューンの出だしは、むしろ美しいサウンドにのせた歌声が流れてきます。しかし、この美しい歌声を切り裂くかのようなノイズが走ってくるのが本作の特徴。そしてそのままながれこむ2曲目「ALL FUTURES」もノイジーなサウンドとボーカルのシャウトが主軸となりつつも、アップテンポなサウンドには、意外にもポップなメロディーを感じさせます。

ノイジーなバンドサウンドで埋め尽くされる「A LIFE SO WONDERFUL」も、ポップパンクとも言えるようなメロディーラインが流れているのが特徴的。続く「AN ITERATION」もギターノイズのイントロからスタートするのですが、歌がはじまると、意外とポップでキュートさすら感じるメロディーラインが流れ出します。

「AVERAGE DEATH」もダイナミックなビートを聴かせつつ、メロにはメランコリックさを感じさせますし、「REAL FOLK SONG」もハードコアでノイジーなバンドサウンドの中に、確実にメロディアスな「歌」を感じさせる楽曲となっています。一方では「BIG SHELL」「FAITH IN MEDICATION」のような、ボーカルのシャウトと、これでもかというほどノイジーで激しいバンドサウンドをダイナミックに聴かせる楽曲もあり、「カオスティック・ハードコア」の真骨頂ともいえるような楽曲ももちろん少なくありません。

ただ、このノイジーなバンドサウンド+ポップなメロという組み合わせは、シューゲイザー系もそうですし、先日紹介したSPIRIT OF THE BEEHIVEもそうですし、決してパターンとしては珍しくありません。ただ、そんな中で彼らがよりユニークだったのは、これだけ狂暴なサウンドを繰り広げながらも、楽曲全体の雰囲気としては、ダウナーだったりダークだったりすることなく、むしろ明るくポップさを感じさせる点でしょう。ミュージックビデオでもコスプレを披露するなど、冗談なのか本気なのかよくわからないコミカルな作品を見せてくれているそうですが、音楽的にも、どこかコミカルな明るさを感じさせる部分があり、それが彼らの大きな魅力になっているように感じました。

個人的にはかなり壺にはまった、2021年を代表する1枚といっても間違いなさそうな傑作アルバムだったと思います。ロック好きなら間違いなく楽しめる1枚。今後、日本でも知名度があがっていきそうな予感も。これからが楽しみになる傑作でした。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

The Best of The Merrymakers/The Merrymakers

97年にリリースされたシングル「Monument of Me」がスマッシュヒットを記録し、日本でも話題となったスウェーデン出身のポップスロックバンドThe Merrymakers。本作は、そんな彼らの日本独自企画によるベスト盤。なにげにThe Merrymakersをしっかりと聴くのはこれがはじめてなのですが、ビートルズ(それも初期)直系のメロディーをさらにスウィートにしたポップなメロディーと、ほどよく「ロック」しているバンドサウンドの調合具合が絶妙で、一気に魅了されました。確かに、ベスト盤として20曲以上の内容を聴くと、メロディーラインはちょっとくどい「ベタ」な印象は否めず、若干一本調子な部分もあり、90年代後半一世を風靡していながら、そのあとが続かなかった理由もなんとなくわかるのですが、ただ、スウィートでキュートなメロディーラインの連続にそんなことはどうでもよくなるような魅力がこのベスト盤には間違いなくあります。全ポップスリスナー必聴の至極のポップアルバムです。

評価:★★★★★

Let The Bad Times Roll/THE OFFSPRING

約9年ぶりとなるTHE OFFSPRINGのニューアルバム。曲が流れた瞬間に「あ、オフスプだ!」と一発でわかってしまうあたりに、彼らの強さを感じます。確かに内容的には、完全にいつものオフスプといった感じで目新しさはゼロなのですが、逆に、大いなるマンネリ的に安心感もある作品とも言えるかも。マイナーコード主体のアップテンポなメロディーにも関わらず、これだけ楽しい雰囲気を醸し出すのはオフスプならではといった感じでしょうか。素直に楽しめたアルバムでした。

評価:★★★★

THE OFFSPRING 過去の作品
RISE AND FALL,RAGE AND GRACE
DAYS GO BY

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