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2021年5月30日 (日)

ここが彼女の"Terminal"か?

Title:Terminal
Musician:YUKI

途中、Chara+YUKIとしてのアルバムリリースはあったものの、自身名義のオリジナルアルバムとしては約2年ぶりとなる新作。その2年前の前作「forme」は数多くの豪華ミュージシャンが参加したものの、その個々のミュージシャンの個性も生かせず、かつYUKIの作品としてもいまひとつ中途半端な作品に仕上がっていました。

ある意味、バラバラといった印象も受けた前作に比べると、今回のアルバムに関してはYUKIとしての方向性が明確になっているように感じます。方向的には、今時のポップス。R&B的な要素を多く入れた、いかにも今風のアレンジがほどこされた作品になっています。冒頭の「My lovely ghost」では歌詞の中でも「シティポップ」という言葉が飛び出すなど、ちょっと露骨ともいえるシティポップのナンバー。続く「Baby,it's you」は彼女ののびやかなボーカルを聴かせる、YUKIらしい歌を聴かせてくれますが、リズムトラックにトラップの要素を入れた今風のアレンジが目立ちます。

さらに続く「good girl」ではホーンセッションの使い方など、K-POPからの影響を強く感じますし、「ご・く・ら・く terminal」などは不穏な雰囲気のエレクトロチューンで、ラップも取り入れた完全にK-POP風のナンバーなど、あきらかの今時のポップスといったイメージを受ける楽曲になっています。

一方、後半はジャジーな「泣かない女はいない」に(歌詞の節回しが旦那のYO-KINGっぽいのは気のせい?)「チューインガム」はソウルからの影響を強く感じるなど、ブラックミュージックからの影響を感じさせるものの、ここらへんはもっとルーツ志向に。また「NEW!!!」などは、マイケルジャクソン的な要素も感じる80年代風のR&Bチューン。いままでの作品に比べると、グッとR&Bやソウル志向が顕著に感じさせます。

このソウルやR&B的な要素を取り入れつつ、全体的には軽快なポップにまとめあげているという点も、いかにも今どきの、時にアメリカのヒットシーンからの影響を感じます。アリアナ・グランデとか、あのあたりを志向しているのでしょうか?前作「forme」も、いかにもサブカル狙い的な感があり、それがマイナス要素だったのですが、今回もこの音楽的な方向性は、若干「狙いすぎ」といった印象も受けてしまいます。

ただ、そういった点を差し引いてもアルバムとしては良く出来た作品に仕上がっていたと思います。まずやはりポップとしての強度が強い点が大きなプラスでしょう。今風なアレンジの曲の間に「NEW!!!」みたいなわかりやすい形でのインパクトのある80年代ポップスを入れてきたり、中盤も「ベイビーベイビー」など、インパクトあるポップチューンを入れてきたりと、アルバム全体としてはポップなメロディーが楽しめる作品になっていました。

また、いかにも狙ったような今風の作品にしても、YUKIのボーカルが入ることにより、しっかりYUKIの作品になっている点が見事。これはさすがソロになってから20年以上のキャリアを誇る彼女らしい、ボーカリストとしての実力の裏付けを感じさせます。前作は、それでも全体的に中途半端な作風になっていたのですが、今回のアルバムは作品全体としての方向性もしっかりしており、そういう意味でもアルバムとして非常によくまとまった作品になっていたように感じました。

ソロとして20年以上、いままで様々な作風のアルバムをリリースしてきた彼女。今回のアルバムタイトル「Terminal」は英語で「終端」という意味。そういう意味では、この作品が、彼女の行きついた先、といった感じになるのでしょうか。まあ、「行きついた先」にしては、アルバムの内容として今風のR&Bから、80年代ポップ、ソウルチューンまで並んでおり、「じゃあ、このうちどれが彼女の『行きついた先』?」と思わなくもないのですが・・・。次はどのような作品をリリースしてくるのでしょうか?まあ、それはさておいて本作。YUKIというボーカリストの実力を感じさせる傑作アルバム。ちょっと「狙いすぎ」な部分も含めて十二分に楽しめる作品でした。

評価:★★★★★

YUKI 過去の作品
five-star
うれしくって抱きあうよ
megaphonic
POWERS OF TEN
BETWEEN THE TEN
FLY
まばたき
YUKI RENTAL SELECTION
すてきな15才
forme
echo(Chara+YUKI)

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