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2021年5月 2日 (日)

現状の不安から未来の希望へ

Title:G_d's Pee AT STATE'S END!
Musician:Godspeed You! Black Emperor

カナダのポストロックバンド、Godspeed You! Black Emperorの約3年7か月ぶりとなるニューアルバム。もともと1994年に結成。2000年にリリースされたアルバム「Lift Your Skinny Fists Like Antennas to Heaven」が日本でも話題となり一躍注目を集めました。その後、2003年に活動を休止するものの、2010年に活動を再開。その後もコンスタントなアルバムリリースを続けています。

そんな彼らの最新作ですが、1曲目「A Military Alphabet (five eyes all blind) (4521.0kHz 6730.0kHz 4109.09kHz)」はいきなり不気味な雰囲気で、何かの声をコラージュしたような作品からスタート。実はこの曲、軍が機密利用する周波数を盗み取り、その音声をコラージュしたという、かなり大胆不敵な作品。もともと、彼らは非常に社会的なメッセージ性の強いバンドで、この作品でも「あらゆる形態の帝国主義の廃止」「刑務所の廃止」「富裕層への貧富格差がなくなるまでの課税」「警察権力の撲滅」をテーマとして掲げているなど、かなり過激とも言えるメッセージを秘めた作品を作り上げています。

もっとも、基本的にインストバンドである彼らは、そういったメッセージを明確に「歌」に載せることはありません(ちなみにボーカルを置かないスタイルは、特定のリーダー、中心人物を作らない方針からくるようです)。ただ、1曲目からスタートし、不気味に展開していくサウンドは、彼らが不満に感じる、今の社会の様相をあらわしている、と言えるかもしれません。ストリーミング盤での1曲目から4曲目までの約20分間がLP盤では1曲目としてつながっており、そのLP盤による1曲目はいずれも不気味な雰囲気の中、メランコリックなメロディーラインを聴かせるスタイルなのですが、最後を締めくくる「where we break how we shine (ROCKETS FOR MARY)」は静かな自然の音の中に、銃声が響いてくる「楽曲」。通して聴くとインターリュード的な作品なのですが、軍の機密情報をサンプリングした1曲目から続く曲の最後ということを考えると、非常に不気味な未来を暗示するような結末となっています。

そんな不気味な雰囲気から続く5曲目(LP盤では2曲目)「Fire at Static Valley」は非常に悲しい雰囲気のメロディーラインが展開されるメランコリックでメロディアスなギターインストナンバー。分厚いギターノイズの中で展開される悲しげなサウンドが胸をうつ楽曲になっており、圧巻のサウンドに思わず聴き入ってしまうでしょう。

LP盤だと「B面」となる「"GOVERNMENT CAME" (9980.0kHz 3617.1kHz 4521.0 kHz)」も、こちらはどういうサウンドか不明だったのですが、こちらも何等かの傍聴した電波から流れてくる音をサンプリングした音からスタート。こちらも途中からは、メランコリックなメロディーラインで高揚感のあるバンドサウンドが途中から展開されて、聴く人の耳を奪います。

ここからの3曲(LP盤では2曲)も、いずれもメランコリックなメロディーラインが流れるのが特徴的ですが、不気味な雰囲気だった前半(LP盤のA面曲)とは対照的に、「Cliffs Gaze / cliffs' gaze at empty waters' rise / ASHES TO SEA or NEARER TO THEE」では分厚いギターノイズが流れるダイナミックなバンドサウンドの中、どこか爽やかな雰囲気で楽曲は幕を下ろしますし、ラストの「OUR SIDE HAS TO WIN (for D.H.)」も分厚いギターノイズが流れる中、厳かな雰囲気のストリングスが響き、荘厳な雰囲気の作品は、どこか未来への希望を感じる明るさがあります。不気味な雰囲気が貫かれて、現状への不安を感じた前半に比べて、後半は、未来への希望を感じさせる展開になっており、聴き終わった後、明るさを感じさせる展開になっていました。

基本的にノイジーなギターサウンドを中心に、ストリングスなども積極的に取り込んだダイナミックな作風のインストチューンという構成は以前と同様。前作「Luciferian Tower」はダイナミックなサウンドは控えめに美しいメロディーラインが耳を惹く作品になっていました。今回の作品に関しては、前作よりは高揚感のあるサウンドを聴かせてくれているものの、そのサウンドでリスナーを圧倒しようとするよりは、メランコリックなメロディーをしっかり聴かせようとする作風が目立ち、そういう意味では前作の方向性を踏襲するような作品。また、音で圧倒するよりもメロディーを聴かせようとするスタンスは、彼らがいい意味で「大人になった」ようにも感じます。とはいえ、サウンド面も含め全52分、リスナーの耳を惹きつけて離さないサウンドを次々と繰り広げる傑作アルバム。その構成も見事でしたし、彼らの実力を感じさせる1枚でした。

評価:★★★★★

Godspeed You! Black Emperor 過去の作品
'Allelujah! Don't Bend! Ascend!
Asunder, Sweet and Other Distress
Luciferian Towers

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