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2021年5月28日 (金)

アメリカ産日本の時代劇アニメのサントラ

Title:YASUKE
Musician:Flying Lotus

ジャズをベースとした独特のエレクトロサウンドで、アルバムをリリースする毎に大きな話題を集めるアメリカのミュージシャン、Flying Lotus。その新作は、なんとアニメのサントラ盤。もともと、彼自身、日本のアニメのファンだそうで、以前放送されたアニメ「キャロル&チューズデイ」にも楽曲を提供したりしていましたが、今回は本格的に音楽プロデューサーとして参加。Netflixで配信されている同作は、織田信長に仕えていたといわれる黒人の武士「弥助」を主人公とした話。とはいえ、このアニメ、日本の作品ではなく、ラション・トーマスというアメリカの監督による作品。信長に弥助という黒人が使えていたという話は、ある程度歴史に詳しい人なら知られている話ですが、その弥助をアメリカの監督がアニメの素材として目をつけるあたり、ちょっと驚きですし、逆にこういう話を日本人が手をつけなかったことが残念にすら感じます。

さて今回のアルバム、アニメのサントラということもあり全43分という長さながら26曲入りという、1曲あたり平均2分弱という曲が並びます。ただ、この手のサントラにありがちな一瞬、ワンアイディアの音が鳴って1曲終了、というような、完全な「効果音」的な曲はなく、基本的にはどの曲もFlying Lotusの曲として成立した曲が並んでいます。そういう意味では純粋にFlying Lotusのオリジナルアルバムとして聴いていて最後までしっかりと聴かせる内容になっていました。

まずアルバムはアニメのオープニングを彷彿とさせる「War at the Door」からスタート。ある種のベタさを感じさせるスケール感あるオープニングではあるのですが、勇壮さを感じさせつつ同時にメランコリックな雰囲気のトランペットと細かく刻むエレクトロのリズムにちょっとジャジーな雰囲気を加えており、Flying Lotusらしい作品になっています。そしてスタートするのがオープニング曲「Black Gold」。こちらはThundercatをフューチャー。ハイトーンで聴かせるボーカルも心地よいメロディアスな楽曲になっています。ジャジーな要素を取り込んだエレクトロサウンドの中、どこか「和」な要素を感じさせるのもユニークな部分。

中盤で耳を惹くのがDenzel CurryしたHIP HOPチューン「African Samurai」でしょう。シンプルでテンポよいリズムの中でラップが登場するのですが、日本人の耳にとっては唐突に登場する「ノブナガ」「ハラキリ」の日本語が非常にユニーク。ラップの中に「ノブナガ」なんて言葉が登場するのは、この曲が唯一でしょう。しかし、このHIP HOPチューン、戦国時代を描いたアニメの中でどのように登場するんだろうか・・・気になります。

最後を締めくくる「Between Memories」も女性ボーカルNiki Randaをフューチャーした歌モノのポップ。サントラの位置づけ的にエンディング曲でしょうか?こちらも2分弱の短い曲ながらもドリーミーな雰囲気が印象的な美しいポップチューンに仕上がっています。

そして今回の作品で一番ユニークかつ特徴的だったのは、舞台が日本だったからでしょう、「和風」なサウンドが多く登場します。同じくNiki Randaをフューチャーした「Hiding in the Shadows」は彼女のハイトーンボーカルを幻想的に聴かせる美しいナンバーですが、その幻想的な雰囲気に琴の音色が重要な役割を果たしています。「Fighting Without Honor」も力強い和太鼓のリズムを聴かせつつ、トランペットの音色で壮大さを演出している曲ですし、「Your Lord」でも琴や尺を彷彿とさせる音が登場するなど、日本を舞台にしているから当たり前といえば当たり前なのですが、日本的な雰囲気を醸し出している楽曲が続きます。

ただ、外国人がつくる「和風」の曲というと、日本人にとってはあまりにベタに和楽器が登場したり、和風というよりも中華に近い雰囲気になっていたりと、違和感を抱く曲も少なくありません。しかし、本作については、確かに若干、琴や和太鼓など、わかりやすい「和」の世界である点は否めないものの、さほど違和感はありません。和楽器の要素がFlying Lotusのサウンドに上手く融合しているのが大きな要因ですし、また彼自身、日本のアニメなどをよく知っているため、昔ながらも「ハラキリ・サムライ・ゲイシャ」的な日本のイメージに染まっていない点も大きいのかもしれません。Flying Lotusらしいメランコリックなジャズ風のエレクトロサウンドに、ほどよい和の要素が加わっている音楽性には私たち日本人にも親近感を抱きながら、純粋にそのサウンドを楽しむことが出来る内容になっていました。

前述のとおり、アニメのサントラ盤ではあるものの、純粋にFlying Lotusの新作として楽しむことが出来るアルバム。和の要素は私たちにも耳なじみありますし、アニメのサントラという目的があるからでしょうか、いつもの彼のサウンド以上にポピュラリティーがあり、いい意味で聴きやすい作品だったと思います。しかしサントラが良かったこともあるのですが、アニメ本体もその内容からしてかなり気になります。日本でも普通にみられるみたいなので、これは見てみたいなぁ・・・。

評価:★★★★★

Flying Lotus 過去の作品
Cosmogramma
PATTERN+GRID WORLD
UNTIL THE QUIET COMES
Flamagra


ほかに聴いたアルバム

SWEEP IT INTO SPACE/Dinosaur Jr.

Dinosaur Jr.約5年ぶりとなるニューアルバム。ご存じJ.Mascisと、今回はThe War On Drugsの元メンバーであり、Courtney Barnettとのコラボでも話題となったギタリストKurt Vileとの共同プロデュースによる作品。とはいえ、基本的にはいつも通りのDinosaur Jr.であり、普段と何も変わらない、ノイジーで心地よく軽快なギターを中心としたバンドサウンドにテンポよくメロディアスなメロディーラインがのるスタイル。ある意味、いつも通りで代わり映えがしないといえば代わり映えしないのですが、まあそれはそれで下手な挑戦をするよりもよっぽどいいといった感じで。いい意味で安心して聴ける間違いない1枚でした。

評価:★★★★

Dinosaur Jr. 過去の作品
beyond
Farm
Give a Glimpse of What Yer Not

Landscape Tantrums/The Mars Volta

現在、事実上の解散状態となっているロックバンドThe Mars Voltaが、突如配信でリリースした作品。本作は2003年のデビューアルバム「De-Loused in the Comatorium」の未完成オリジナルレコーディングをおさめた未発表音源集。ただ「未完成」といってもデモっぽい雰囲気の曲はなく、ダイナミックなバンドサウンドに複雑なリズムとサウンドという彼ららしいサウンドに、メランコリックなメロディーラインが載るというスタイルでそれなりに出来上がっており、完成音源と比較するのも楽しいのですが、これはこれで十分楽しめるアルバムに。久しぶりに彼らの作品を聴き、いいバンドだったよなぁ・・・とあらためて実感した作品でした。

評価:★★★★★

THE MARS VOLTA 過去の作品
The Bedlam In Goliath(ゴリアテの混乱)
OCTAHEDRON
Noctoumiquet

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