エキゾチックなボーカルとサウンドで
Title:Vulture Prince
Musician:Arooj Aftab
今回紹介するアルバムは、まだ特に日本ではほとんど無名のミュージシャンによるアルバムのようです。Pitchforkで高い評価を得ていたため聴いてみたのですが、Google検索をかけてみても日本語のサイトのヒットはほとんどありませんでした。そのため彼女について詳細な情報は不明なのですが、アメリカはニューヨーク・ブルックリンで活躍するパキスタン出身の女性シンガーソングライターのようで、本作が3枚目になるアルバムのようです。ジャケット写真にしても彼女の名前にしても、かなりエキゾチックな雰囲気が伝わってきます。
そんな前情報ほとんどなしの状態でアルバムを聴いたのですが、これが非常に素晴らしい傑作アルバムに仕上がっており、一気に彼女の世界に魅了される結果となりました。まず冒頭を飾る「Baghon Main」から素晴らしい作品。ゆっくりとしたストリングスやアコースティックギター、静かなベースによって奏でられるファンタジックな雰囲気のサウンドがまずは惹きつけられます。特に楽曲全体に流れるハープのような音色のストリングスの響きに非常に魅せられるのですが、そして、それに載る、彼女の歌声も実に素晴らしいの一言。微妙にこぶしが入り、迫力を出しつつも、清涼感ある伸びやかな歌声が魅力的。彼女の歌にも、どこかトライバルな雰囲気もあり、独特な雰囲気を出している点も大きな魅力でした。
2曲目「Diya Hai」はPVも作成された、このアルバムの中での中心となるような1曲。Badi Assadというブラジルの著名なギタリストが参加しているのですが、彼女の奏でるアコギの音色も表現力豊かで耳を惹きつけられます。全体的にメランコリックな雰囲気の作風に、ストリングスの音色ももの悲しく響く、美しい作品に仕上がっていました。
3曲目「Inayaat」も美しいハープの音色で聴かせる、清涼感あるアコースティックなナンバー。冒頭3曲で、しんみり美しいアコースティックギターをメインとした曲が続くのか・・・と思いきや、それがグッと変わるのが4曲目「Last Night」で、こちらも基本的にはアコースティックな雰囲気でスタートするのですが、途中からヘヴィーで歪んだサウンドを出すエレキギターも登場。さらにダブの要素を入れたサイケなサウンドが重なり、一種独特の妖艶な雰囲気が漂います。音数も少なく緊迫感もある楽曲になっており、アコースティック主体のアルバムの中ではちょっと異色のナンバーとなっているものの、大きなインパクトを持っています。
さらに「Mohabbat」ではトライバルなパーカッションが入り、こちらもより勇壮な雰囲気の楽曲となってアルバムにバリエーションを加えています。そしてなによりも彼女の美しい歌声を聴かせるのが「Saans Lo」。静かなギターをベースとしたシンプルで静かなサウンドをバックに伸びやかでどこかエキゾチックに歌い上げる彼女の歌声が魅力的。そしてラストを締めくくる「Suroor」はトライバルなリズムにエキゾチックなストリングスの音色が乗る異国感あふれるナンバーに。最後を締めくくるこの曲も、楽曲にバリエーションを加える曲になっていました。
彼女の伸びやかで美しい歌声とエキゾチックな雰囲気あふれるアコースティックなサウンドが実にうまく融合し、独特の幽玄的なサウンドを作り出している本作。彼女の歌声にも、そのサウンドにも強く耳を惹かれる傑作アルバム。日本でほとんど無名という事実が実にもったいなく感じる、素晴らしいアルバムで、間違いなく年間ベストクラスの傑作だったと思います。アコースティックでシンプルなサウンドを主体としつつ、意外とバラエティーに富んだサウンドもユニークですし、聴けば聴くほどボーカルの面でもサウンドの面でもはまっていく奥深さも感じます。まだまだ日本では無名の彼女ですが、要チェックの傑作です。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
UnEasy/Vijay Iyer
現代ジャズシーンで注目のピアニスト、Vijay Iyerが、ベースシストのLinda May Han Oh、マルチインストゥルメンタル奏者のTyshawn Soreyと組んでリリースしたトリオアルバム。フリーキーなピアノを聴かせる曲もありつつ、基本的にはメランコリックなピアノの音色をメロディアスに聴かせるジャズアルバム。いい意味で聴きやすさも感じる作品でした。
評価:★★★★
'Til We Meet Again/Norah Jones
ノラ・ジョーンズ初となるライブアルバム。2017年から2019年にかけての、アメリカ、フランス、イタリア、ブラジル、アルゼンチンで行われたライブ音源を収録した、ベスト音源的な様相を持つライブ盤。タイトルからして、このコロナ禍の中、ライブもままならない状況で、次にライブで会える時まで、このライブ盤で・・・という想いを感じます。基本的にピアノを中心としたシンプルなサウンドでしんみり聴かせるスタイルですが、彼女の歌声はオリジナル音源よりもより力強く、より胸に響く感情のこもったライブパフォーマンスを聴かせてくれます。彼女のライブパフォーマンスの魅力を存分に感じるアルバム。コロナ禍が明けたら、彼女のライブに是非行きたい・・・そう感じさせるライブ盤でした。
評価:★★★★★
NORAH JONES 過去の作品
THE FALL
...FEATURING NORAH JONES(ノラ・ジョーンズの自由時間)
LITTLE BROKEN HEARTS
COVERS(カヴァーズ~私のお気に入り)
foreverly(BILLIE JOE+NORAH)
DAY BREAKS
First Sessions
Begin Again
Pick Me Up Off The Floor
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