スポークン・ワードを取り入れた注目のロックバンド
Title:New Long Leg
Musician:Dry Cleaning
若干、バンド名は「ダサカッコいい」的なイメージも抱いてしまうのですが、サウスロンドンを拠点とするポストパンクバンドのデビューアルバム。最近、特にイギリスでは注目のロックバンドが次々と誕生し、一時期はHIP HOP勢などにおされていたロック勢が息を吹き返しつつありますが、彼女たちもそんな注目のロックバンドの一組です。
そんな彼女たちの奏でるサウンドは、基本的にシンプルなオルタナ系のギターロック。決して奇をてらったものではなく、あえて言ってしまうと、さほど目新しさはありません。ただ、そんな中で彼女たちの楽曲の大きな個性となっているのが、ボーカル、フローレンス・ショウのスタイル。彼女はこの曲の中で一切歌っておらず、詩を詠むようなスタイルを取っています。いわゆるスポークン・ワードというスタイルらしく、特に彼女たちが拠点としているサウスロンドンではこのスポークン・ワードのイベントも多く行われているそうです。そんな中で彼女たちのバンド活動がスポークン・ワードと結びついたのも極々自然のことなのかもしれません。
そんな訳で、楽曲の中に「歌」が一切ないスタイルなのですが、作品として決して聴きにくい感はなく、むしろバックのバンドサウンドを含めて、非常にポップにまとまっており、いい意味で聴きやすさを感じる作品になっていました。例えば冒頭を飾る「Scratchard Lanyard」はシンプルなギターリフを主導とするギターロックの作品なのですが、ギターリフの奏でるメロディーが意外とポップで聴きやすく、「Unsmart Lady」もダイナミックさのあるバンドサウンドが心地よさを感じる作品になっています。
中盤の「Her Hippo」やタイトルチューンでもある「New Long Leg」にはギターサウンドにメランコリックさを感じますし、「More Big Birds」はスポークン・ワードというスタイルながらも、メロディアスとすら感じさせます(というか、この曲の中ではフローレンス・ショウもちょっとだけですが歌を歌っています)。
サウンドは全体的にローファイ気味なのですが、それがまた、フローレンスの詩を詠むスタイルにもちょうどマッチしており、ここらへん、バンドサウンドとフローレンスのスポークン・ワードのバランスも絶妙で、彼女の読む詩がすんなり耳に入ってくる反面、バンドサウンドもしっかりとその音を主張しており、両者のバランスの良さを感じさせます。
そんなフローレンスの「詩」は無作為に言葉を並べたような、全体的に散文的な内容が多くなっています。ただ、正直なところ、ここらへんの詩の世界観は、日本人にとってはちょっと距離感を覚えてしまうのは残念なところ。本当は英語の響きを含めて、その世界を味わえるような内容になっているのでしょうが・・・。ただ、その点を差し引いても、彼女の淡々としたボーカルスタイルは楽曲の中で独特かつ不思議な響きとして伝わってきており、私たちにとってもアルバムの中で十分すぎるほど魅力的に感じることが出来るでしょう。
「歌」がないだけに、日本で大ブレイク、というタイプのバンドではないでしょうが、今後、まだまだ徐々に注目を集める予感のするバンドです。特にオルタナ系のインディーギターロックバンドが好きなら間違いなくはまるタイプのバンドだと思います。今後のロックシーンを担う存在になりそうな予感のする、そんな魅力的な傑作アルバムでした。
評価:★★★★★
| 固定リンク
「アルバムレビュー(洋楽)2021年」カテゴリの記事
- 約6年ぶり!(2021.12.29)
- バンドとして進化(2021.12.28)
- ノスタルジックな作風の中に、現在的な視点も(2021.12.26)
- よりポップなメロを主体とした作風に(2021.12.25)
- アイスランドの自然を反映させたソロ作(2021.12.24)
コメント