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2021年5月 8日 (土)

アバンギャルドながらもキュートなメロも

Title:ENTERTAINMENT,DEATH
Musician:SPIRIT OF THE BEEHIVE

ちょっと馬鹿ジャケ気味なジャケットが印象に残る本作は、アメリカはフィラデルフィア出身のインディーロックバンドの、これで4作目となるニューアルバム。しかし、このジャケット写真に反して(?)本作は、非常に凝った中身を持つ、インパクトのあるかつ独特なサウンドを聴かせてくれるロックアルバムの傑作に仕上がっていました。

本作の特徴を一言で言ってしまうと、様々な音を取り入れたアバンギャルドなサウンドを展開させつつ、キュートとも言えるようなメロディアスなメロディーラインを聴かせるというスタイル。1曲目「ENTERTAINMENT」がまさにそんな作風の楽曲で、冒頭、いきなり様々な音をサンプリングさせながら、破壊的なビートでアバンギャルドにスタート。メロディーさえ流れていないノイズからスタートするのですが、中盤にはそれが一転。メロウなボーカルでメロディアスに聴かせるAORナンバーに早変わりを果たします。ただ、そのバックにも微妙に歪んだエレクトロサウンドが流れ続けているのですが。

続く「THERE'S NOTHING YOU CAN'T DO」も同様。前半はメロをズタズタに切られたような作品からスタートするのですが、このメロディーはよくよく聴くと、非常にポップでメロウなナンバー。後半はシャウトも登場し、ハードコア風な展開となりつつ、そこにノイズものるダイナミックな構成になっています。

ポップなメロがはっきりと流れてくるのが「BAD SON」でしょうか。けだるい雰囲気のAORが流れるポップチューン。ただ、途中でいきなりサウンドがぐにゃっとゆがんだり、ノイズが入ってきたりと、ポップとアバンギャルドのバランスが非常にユニークに。「RAPID&COMPLETE RECOVERY」もウィスパー気味のボーカルで聴かせるシティポップ風の作品なのですが、微妙に歪んだサウンドが耳を惹きます。

「WAKE UP(IN ROTATION)」は、このアルバムで一番明るく軽快なポップナンバーとなっているのですが、それでも様々なサウンドをサンプリングした複雑なサウンド構成が耳を惹きますし、さらにある意味アルバムのハイライトとも言えるのが、この作品で一番の長尺曲となっている「I SUCK THE DEVIL'S COCK」でしょう。最初、軽快で明るいサウンドからスタートし、軽快なギターロックの作品かと思えば、ノイズやエレクトロサウンドで実験的な作風に。かと思えば女性ボーカルをメロウに聴かせる作風に変化したり、サイケなサウンドでしんみり聴かせたりと、7分弱のサウンドの中で彼らの様々な挑戦が試みられる作品になっています。

このノイズなども取り入れたアバンギャルドな作風と、キュートと言えるメロも聴かせるポップなメロディーラインの両立というスタイル、なにげにシューゲイザー系と共通する構図だったりします。実際、アルバムを聴いていると、シューゲイザーを彷彿とさせるような瞬間もあり、個人的にはかなり壺な作風。そんな好みの部分を差し引いても、凝った聴かせどころも多い作品ですし、実験的な部分とポップな部分のバランスも絶妙。そういう意味でも文句なしの傑作ですし、個人的には年間ベストクラスの傑作アルバムだったと思います。名前も含めて完全にはじめて聴いたバンドですが、かなりはまってしまいました。ロック好き、特にシューゲイザー系が好きならぜひとも聴いてほしい1枚です。

評価:★★★★★

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