大ベテランと若手の融合
Title:McCartney III Imagined
Musician:Paul McCartney
昨年12月にリリースされ、随所で大絶賛により迎え入れられた大御所、Paul McCartneyの新作「McCartneyIII」。1970年にリリースされたアルバム「McCartney」、1980年にリリースされた「McCartneyII」の続編にあたる作品としても大きな話題を呼びました。その話題となった「McCartneyIII」のリリースから約5ヶ月。この「McCartneyIII」を様々なミュージシャンが再構築したリミックスアルバムがリリースされました。
このリミックスアルバムでなによりユニークだったのがその人選。いうまでもなくPaul McCartneyといえば、The Beatlesのメンバーとして音楽史にその名を燦然と輝かせる大御所中の大御所。ただ一方、やはりメインとなるリスナー層もThe Beatlesをリアルタイムで聴いたか、もうちょっと下の世代がメインなのではないでしょうか。
しかし、今回のリミックスでは新進気鋭の若手ミュージシャンが多くリミックスに参加しています。「Pretty Boys」は、昨年アルバム「Mordechai」が話題となったKhruangbinがリミックス。タイ式ファンクグループと言われ、独特のグルーヴ感を出している彼らですが、「Pretty Boys」も、完全に彼らの土俵にのった、サイケなグルーヴ感を醸し出しています。「Women And Wives」では、アルバムをリリースする毎に大きな話題を呼ぶSt.Vincentがリミックス。ホーンセッションやピアノを入れて、原曲をよりムーディーな雰囲気に仕上げています。
「Deep Down」もご存じBlood Orangeがリミックス。原曲のメロはそのままに、エレクトロアレンジにより「今風」な作品に衣替え。「Seize The Day」も昨年アルバム「Punisher」が大きな話題を呼んだシンガーソングライターのPhoebe Bridgersが担当。リミックスというよりはカバーといった感じなのですが、メロディアスなポップが彼女のボーカルにも見事マッチしたカバーに仕上がっています。
おそらくこのあたりのシンガーは、「McCartneyIII」を聴くリスナー層的には「誰?」といった感じのミュージシャンかもしれません。ただ、この大ベテランの曲を若手ミュージシャンがリミックスするという構図が非常にユニーク。良くも悪くも昔かたぎな部分も否定できない彼の作品が、今風のアレンジで生まれ変わっています。ただ結果としては、今風のサウンドにもしっかり耐えられる優れたメロディーラインを持っている曲ということを再認識させられ、あらためてポールのすごさを感じます。
一方ではポールにしてみれば「ひよっこ」かもしれませんが、一般的には十分ベテランの域に達しているミュージシャンも参加。冒頭「Find My Way」はBeckがリミックスを担当。彼らしい軽快で楽しいポップチューンに仕上がっています。「Long Tailed Winter Bird」はデーモン・アルバーンがリミックス。エレクトロアレンジがほどこされ、原曲のイメージを保ちつつ、また異なる雰囲気のアレンジが楽しい曲に。さらにQueens Of The Stone AgeのJosh Hommeは「Lavatory Lil」をカバー。こちらは彼らしいハードロックスタイルのアレンジの曲に仕上がっています。
そんな訳で、「McCartneyIII」の曲が様々なミュージシャンによって生まれ変わった非常にユニークなリミックスアルバム。また一方ではどのようなアレンジ、カバーをほどこされてもしっかりと曲の魅力が伝わる内容となっており、ポールの曲の持つ、メロディーラインの強靭さをあらためて実感し、彼の実力を再認識させられる内容にもなっていました。特に大御所と新進気鋭の若手ミュージシャンの組み合わせがユニークだった本作。これではじめて知った、というミュージシャンのアルバムも、一度聴いてみては?音楽の世界が広がるかもしれません。
評価:★★★★★
PAUL McCARTNEY 過去の作品
Good Evening New York City
NEW
Egypt Station
McCartneyIII
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