いきものがかりらしさをしっかりと抑える
Title:WHO?
Musician:いきものがかり
活動再開後2作目となるいきものがかりのニューアルバム。正直言うと、現在の状況はいきものがかりとして決して順風とは言えません。活動開始前ラストにリリースした「FUN!FUN!FANFARE!」は初動売上が10万枚を超え、人気ミュージシャンとしての地位を確固たるものにしていたのですが、活動開始後、最初の作品である前作「WE DO」は初動売上が3万7千枚と大幅ダウン。本作に至っては、初動売上は1万9千枚と前々作の十分の一程度にまで落ち込んでしまいました。もちろん、「FUN!FUN!FANFARE!」がリリースされた2014年に比べて、CD販売をめぐる状況は大きく変化してきた、という環境面の影響もあります。また、ボーカル吉岡聖恵が2020年に結婚した、という点も売り上げ減の大きな要因かもしれません。
また、ここ最近の彼女たちの活動も、逆風気味である点はいなめません。同作にも収録している配信シングル「生きる」は、昨年初頭、大ブームにもなったTwitter上の漫画「100日後に死ぬワニ」とのコラボという、満を持しての新曲・・・・・・となったのですが、ご存じのように、この「100日後に死ぬワニ」は、連載終了と同時に、様々なタイアップが発表されたこともあり、「最初から広告代理店によって仕組まれたブームだったのでは?」と大炎上。さらには、その直後のコロナ禍もあって、一時期のブームが嘘のようにあっという間に話題がしぼんでしまい、それに伴い、満を持して発表されたいきものがかりの新曲も、むしろ「100日後に死ぬワニ」の「作られたブームの一貫を担っている」とみなされて、全く話題に上ることなく忘れ去られてしまいました。
そんな状況の中でリリースされたのが今回のアルバム。彼らにとっては厳しい状況の中でのリリースとなりました。しかし、その逆風をもろともせず、むしろアルバムの内容については、グループとしての充実ぶりを感じさせる出来栄えに仕上がっています。特に良い意味で最後までリスナーを飽きさせないバラエティーの豊富さと、楽曲の安定感は、長年、人気ポップグループとしてJ-POPを支えてきたという、彼らの矜持を感じさせる出来栄えに仕上がっていました。
1曲目「TSUZUKU」は、正直ほとんど話題になっていないといっていい映画「100日間生きたワニ」の主題歌に起用されています。映画自体は、まだ、あの企画を持たせるの?と思ってしまうのですが、ただ楽曲の出来栄えとしては、ストリングスを取り入れて伸びやかにきかせるいかにもいきものがかりらしい楽曲に。目新しさという点では乏しいかもしれませんが、いきものがかりらしさという壺をしっかりと抑えた楽曲に、彼らの実力を感じます。
続く「BAKU」は一転、ホーンセッションを入れたマイナーコード主体の哀愁感のある楽曲に。ムーディーさと妖艶さを感じさせる楽曲で1曲目との振れ幅の大きさにバリエーションの豊富さを感じさせつつ、3曲目「きらきらにひかる」はストリングスで哀愁感たっぷりに聴かせる歌謡曲テイストの作品。この冒頭の3曲は、いずれもいきものがかりらしい作風なのですが、一方で、そういう「らしさ」をきっちりと抑えてくるあたりにもポップミュージシャンとしての実力を感じさせます。
その後も「からくり」ではギターにブルージーな要素を感じたり、「チキンソング」ではニューオリンズ的な要素を感じたりと、ここらへんはいきものがかりとしての新しさを感じますが、楽曲全体としては「いきものがかり」としてリスナーがイメージさせる範囲内にしっかりとおさめてきており、ここらへんの匙加減の上手さも彼らの実力と言えるでしょう。
そしてラストを締めくくる良くも悪くも話題となった「生きる」は、やはり楽曲としては素直によくできたバラードナンバーだと思います。正直、先行シングルの「TSUZUKU」や「BAKU」は、インパクトの面で、全盛期の彼女たちの楽曲に比べると、ちょっと薄味だな、と感じてしまうのですが、この「生きる」は楽曲としてのインパクトの強さと合わせて、売り方を間違わなければ、もっとヒットしたのでは?と感じてしまいました。
収録曲数は9曲と、オリジナルアルバムとしてはちょっと短めなのですが、一方、それだけにしっかりと楽曲を厳選した、ということを感じさせるアルバム。前作「WE GO」は、良くも悪くも大いなるマンネリ気味な部分が目立ち、いまひとつに感じてしまったのですが、今回のアルバムはしっかりといきものがかりとして期待されている楽曲に応えつつ、そんな中でもいろいろな要素を入れてくるなど、ポップミュージシャンとしての彼女たちの実力を感じさせる作品になっていました。
吉岡聖恵のボーカルも、以前に比べて低音部に安定感が増し、表情も増えてきており、ボーカリストとしての成長…という以上に、いい意味で年齢なりに深みを感じるボーカリストになってきたように感じます。いきものがかりとしてすでに一世を風靡し、ミュージシャンイメージもついてしまっているため、今後、さらにブレイクというのは難しいかもしれません。ただ、ポップミュージシャンとしてさらに上にステージにむかいつつあることを感じた作品。個人的には「I」以来の傑作だと思います。今後のさらなる活躍を期待したいところです。
評価:★★★★★
いきものがかり 過去の作品
ライフアルバム
My Song Your Song
ハジマリノウタ
いきものばかり
NEWTRAL
バラー丼
I
FUN! FUN! FANFARE!
超いきものばかり~てんねん記念メンバーズBESTセレクション~
WE DO
ほかに聴いたアルバム
KAELA presents on-line LIVE 2020 “NEVERLAND”/木村カエラ
彼女にとってはじめてとなるオンラインライブ「KAELA presents on-line LIVE 2020 “NEVERLAND"」の模様を収録したライブ盤。映像作品としてリリースされましたが、配信限定で音源のみでのリリースとなっています。比較的ベスト盤的な選曲になっている本作は、最初から最後までとことんポップで楽しめるアルバムに。コロナ禍の中で鬱々とした雰囲気の中だからこそ、彼女のような明るいポップソングがより胸に響きます。終始、明るいポップソングを素直に楽しめたライブ盤でした。
評価:★★★★★
木村カエラ 過去の作品
+1
HOCUS POCUS
5years
8EIGHT8
Sync
ROCK
10years
MIETA
PUNKY
¿WHO?
いちご
ZIG ZAG
発光帯/ハナレグミ
約2年7ヶ月ぶりとなるハナレグミ8枚目となるニューアルバム。タイトル曲「発光帯」は、元SUPER BUTTER DOGの盟友、レキシこと池田貴史作曲、クラムボンの原田郁子作詞という豪華なラインナップでも話題に。全体的にはアコースティックベースのサウンドで、ほっこりと暖かくも、非常に明るい雰囲気の曲調が魅力的な内容になっています。ただ、良質な大人のポップスが並んでいるのですが、この「大人のポップス」という要素が、良い方向にも悪い方向にも作用した作品で、ゆったりと安心して聴ける反面、若干パンチ不足なのが気になります。楽曲的には前作よりバリエーションも増えた感はあるのですが、その点を考慮してもおとなしいという印象を受けるアルバムになっていました。良作なのは間違いないと思うのですが・・・。
評価:★★★★
ハナレグミ 過去の作品
あいのわ
オアシス
だれそかれそ
どこまでいくの実況録音145分(ハナレグミ,So many tears)
What are you looking for
SHINJITERU
Live What are you looking for
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