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2021年5月 3日 (月)

ボーダーライン

Title:ケツノパラダイス
Musician:ケツメイシ

メジャーデビュー20周年を記念してリリースされたケツメイシのベストアルバム。「ケツメイシって、この間、4枚同時リリースのオールタイムベストをリリースしたばかりじゃん」と一瞬思ったのですが、その4枚同時リリースのベストアルバムがリリースされたのがちょうど10年前という事実に愕然としてしまいました・・・月日が経つのは早いなぁ・・・。その後、オリジナルアルバムも4枚リリースされていますし、まあ2枚目のベスト盤がリリースされるとしても妥当といった感じでしょうか。4枚組という内容が、少々ボリューム過多だったイメージのある前作に比べて、本作は2枚組と比較的コンパクトにまとめられており、ケツメイシの歩みのわかるベスト盤となっています。

さて、今回のベスト盤、内容を聴くより先に、ジャケット写真に若干の違和感を覚える方が多いのではないでしょうか。いつものケツメイシのアルバムジャケットと同じように、首里城をバックにメンバー4人の写真なのですが、その4人にどこか違和感が・・・。これ、本人たちが首里城の前で写真を撮ったわけではなく、コロナ禍の影響で沖縄に行けなくなったメンバーに代わって、スタッフが現地に彼らの等身大パネルを持ち込み撮影した写真だそうです。今の時代、CG技術を使えば、おそらくもっと自然な写真を撮ることができたでしょうし、もっと言えば、時期を選べたメンバーも沖縄まで行けたのでは?(そもそもスタッフは行っているわけだし)とも思うのですが、あえてこういう形の写真にしたのに彼らのユーモアセンスを感じます。ひょっとしたら、コロナ禍という時代性を反映させるため、という意図もあるのかもしれません。

彼らが10年前にリリースしたベストアルバムの時に、まずは感じたのが、「売れ線J-POPと実力派のボーダーライン上にいるようなグループ」というイメージでした。いわば典型的な売れ線J-POPのような、「仲間」ソングや「前向き応援歌」的な歌を歌いつつ、一方では現実に立脚した心に響くような歌にも出会える、そんな「売れ線グループ」として切り捨てるには惜しいすぎる名曲も多い反面、「実力派」としてもろ手をあげて評価するには、かなり違和感を覚える微妙な曲も少なくない、そんなグループというイメージがありました。ただ、彼らのオリジナルアルバムに関して言えば、ここ最近のアルバムは、ベテランバンドらしい地に足をつけた安定感ある楽曲に、大人らしい現実味ある歌詞を重ねつつ、新たなサウンドにも挑戦する、という「実力派」の側面を前に出した良作が続いており、そういう意味ではバンドとして、ひとつ上のランクに到達した感があります。

今回のベスト盤に関しても、例えば2002年にリリースした彼らの代表曲である「さくら」。いわゆるその頃に、雨後の筍のように次々とリリースされた「さくら」ソングの一環として、ともすれば「ベタな売れ線J-POP」のようなタイプの曲なのですが、その歌詞の出だし

「さくら舞い散る中に忘れた記憶と
君の声が戻ってくる」
(「さくら」より 作詞 ケツメイシ)

このたった冒頭のワンフレーズだけで、さくらが舞い散る春先の光景と、その中でおそらく主人公は彼女と別れたということ、その別れた彼女とは、「さくら」にまつわる思い出があるという物語性を彷彿とさせ、あらためて聴くと、非常によく出来たポップスだということに気が付きます。ある意味、ベタなヒット曲なのですが、その中に彼らの実力をしっかりと感じることが出来ます。

ただ一方、正直今回のベストアルバムでは、彼らの楽曲の気になる側面、いわゆるベタなヒット曲らしい「仲間」ソングや「前向き応援歌」的な曲が目立ってしまっているような感もありました。今回のベスト盤は2枚組なのですが、発売順ではなく、おそらく1枚目は明るいラテン調のサマーチューンを集め、2枚目には前向きな応援歌的な曲を集めた構成になっているのですが、特にその2枚目、「トモダチ」「仲間」「幸せをありがとう」・・・・・・タイトルを書いているだけで恥ずかしくなってくるような曲が並びます。郷愁感もあるメロディーラインで曲自体は決して悪いわけではないのですが、聴いていてかなり微妙な気分にさせられたように感じます。

今回のベスト盤は「関係者を中心におすすめのケツメソングを収録」ということですので、熱心なファンにとっては、こういった路線の曲を求めているということでしょうか。その点はちょっと気になりますし、今回のベスト盤では、ここ最近のケツメイシのもっと地に足をつけた感じをあまり感じられなかったが若干残念に感じます。ただ一方、魅力的な曲も少なくなく、そういった意味では、前回のベスト盤と同様、「ボーダーラインにいるバンド」というイメージを強く感じた内容になっていました。ただ、前述の通り、ここ最近の作品は、彼らの成熟したミュージシャンとしての一歩を感じます。それだけに次の10年にさらなる期待をしたいところ。これからの彼らの活躍も楽しみです。

評価:★★★★

ケツメイシ 過去の作品
ケツノポリス5
ケツノポリス6
ケツノポリス7
ケツの嵐~春BEST~
ケツの嵐~夏BEST~
ケツの嵐~秋BEST~
ケツの嵐~冬BEST~

KETSUNOPOLIS 8
KETSUNOPOLIS 9
KTMusic(KTMusic)
KETSUNOPOLIS 10
ケツノポリス11


ほかに聴いたアルバム

THE ESSENCE OF SOIL/SOIL&"PIMP"SESSIONS

SOILの新作は、彼ら初となるカバーアルバム。タイトル通り、彼らの「エッセンス」となった、彼らが影響を受けたジャズナンバーのカバー。スタンダードナンバーから知る人ぞ知る楽曲まで収録されています。原曲に敬意を表しつつ、彼ららしさはしっかりと感じられるナンバーになっており、しっかりとSOILのアルバムに仕上がっていたアルバムでした。

評価:★★★★

SOIL&"PIMP"SESSIONS 過去の作品
PLANET PIMP
SOIL&"PIMP"SESSIONS presents STONED PIRATES RADIO
MAGNETIC SOIL
"X"Chronicle of SOIL&"PIMP"SESSINS
Brothers & Sisters
BLACK TRACK
DAPPER
MAN STEALS THE STARS

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