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2021年5月 7日 (金)

戦前ジャズの奥深さを感じる

Title:The LOST WORLD of JAZZ 戦前ジャズ歌謡全集・続々タイヘイ篇

戦前のSPレコードの復刻専門レーベル、ぐらもくらぶ。日本の大衆歌謡史を今に伝える貴重な音源を数多く復刻しているレーベルで、当サイトでもたびたび取り上げています。そんなぐらもくらぶの新作は、戦前のレーベル、タイヘイ・レコードからリリースされた戦前ジャズのSPをまとめた1枚。といっても、このタイヘイ篇はタイトル通り、本作が第3弾。昨年の9月に「続タイヘイ篇」がリリースされており、それから半年も満たないスパンでの第3弾となりました。

ただ、それだけタイヘイ・レコードに残された優れた音源が多い、ということなのでしょう。もっとも、ここで言う「ジャズ」は、今、一般的にイメージされるような「ジャズ」ではなく、もっと幅広い、西洋の音楽の要素を取り入れたポップスを「ジャズ」という当時のポピュラーなジャンル名で代用しているところが見受けられます。ちょっと前まで、バンドサウンドを取り入れていれば、猫も杓子も「ロック」と呼ばれていたような現象に似ている感じです。今の言葉で言えば「J-POP」という意味合いが強いのでしょうか。

そのため、今の耳で聴くと、「ジャズ」からはちょっと程遠い感じの曲も少なくありません。「窓の青空」は、今の感覚で言えば、完全に演歌やムード歌謡という「昔ながらの日本歌謡曲」にカテゴライズされそうな曲ですし、「夢のキャラバン」も、異国情緒を感じさせるナンバーですが、こちらも今、ジャンルをつけるとしたらムード歌謡に入れられそうです。

「片思ひ Ukulele Lullaby」は、ジャズというよりもむしろハワイアンな曲。第1弾の「タイヘイ篇」でも第2弾の「続タイヘイ篇」でもハワイアンの曲がありましたから、いかに当時、ハワイアンが日本に浸透していたのかをうかがわせます。伸びやかなミッキィ松山のボーカルも魅力的です。「だけどだけど」も今で言えば完全に演歌の範疇になりそうな楽曲。ただ、丸山和歌子のかわいらしいボーカルと歌詞が魅力的で、今でも通用しそうな魅力的なポップスに仕上がっています。

もちろん軽快なホーンセッションを聴かせてバタ臭い感の強い、スウィングやビッグバンドの影響も強い、いかにもジャズ的な曲も少なくなく、特に「愛の夢 Liebestraum」「オーバーゼアー Over There」など、内本實の歌うこれらの曲は、特にジャズ的な要素の強い作品になっていました。

前作もそうでしたが、「戦前ジャズ」の奥深さを感じさせる優れた企画盤。タイヘイ・レコードというレーベルの魅力を感じさせてくれる1枚でした。次回はタイヘイ・レコードの第4弾でしょうか?それとも別のレーベル?どちらにしろ、いつも優れた企画アルバムをリリースしてくれるぐらもくらぶなだけに、次回作も非常に楽しみです。

評価:★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Caramel Guerrilla/浅井健一

約1年半ぶりとなる浅井健一ソロ名義によるニューアルバム。初っ端から、浅井健一らしいくすんだ雰囲気の空気がむんむんに漂うナンバーで、哀愁感ありつつも、どこか危険な香りのするメロディーラインが実に彼らしさを感じる作品に。「危険な香り」とはいいつつ、良くも悪くも彼らしいという点で「大いなるマンネリ」気味なのは否定できず、その点はマイナスポイントなのですが、実に浅井健一らしいアルバムといった作品になっていました。

評価:★★★★

浅井健一 過去の作品
Sphinx Rose
PIL
Nancy
METRO(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)
Sugar(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)
BLOOD SHIFT

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