サウンドのバリエーションも増した傑作
Title:よすが
Musician:カネコアヤノ
個人的に、今もっとも注目している女性シンガーソングライターのひとり、カネコアヤノ。もっとも、注目をしているのはもちろん私だけではなく、前作「燦々」が第12回CDショップ大賞<青>に選出されるなど、彼女に対する注目は急速に高まっています。そしてリリースされたのが純然たるオリジナルアルバムとしては、約1年半ぶりとなるニューアルバム。今回の作品に関しても、前作以上に彼女の魅力がつまった傑作アルバムに仕上がっていました。
まず何といっても魅力的なのが、ミディアムテンポで温かさを感じる郷愁感のあるフォーキーなサウンドとメロディーライン。そして、そんなフォーキーな作風ながらも、登場人物の体温が感じられる、もうちょっと生々しい言い方をすると肉感のある歌詞が大きな魅力。1曲目の「抱擁」など、まさに彼女らしい作風の曲で、メロディーラインはフォーキーながら「抱擁をまっていた/胸の中で」とかなりストレートな肉感のあるラブソングとなっています。
「春の夜へ」もしんみり聴かせるフォーキーなメロも大きな魅力なのですが
「昼過ぎ起床の今日の朝へ
インスタントコーヒーをいれるために
熱いお湯を沸かす
やかんが震える空気の部屋」
(「春の夜」より 作詞 カネコアヤノ)
という風景描写からも、どこかまったりとした恋人同士の空気感が感じられ、耳に残る歌詞になっています。
歌詞が印象的というと、「栄えた街の」の歌詞も印象的。「今年はもうきっと何処へも行けない」というスタートの歌詞は、このコロナ禍を彷彿とさせます。カントリー調の軽快で明るい歌詞とはうらはらに、自分たちを「栄えた街の屋上で干されたシーツ」に例えたこの曲は、街の中で無防備な自分たちと、だからこそ2人で手を取り合って進んでいこうとする恋人同士の心証が上手く描かれた歌詞になっています。
そんな感じで、メロディーや歌詞が大きな魅力なのは間違いないのですが、ただなんといっても彼女の最大の魅力は、そのサウンドでしょう。サイケやロック、さらにカントリーやハワイアン、トラッドなどの要素も入ったサウンドに聴いていて強く耳を奪われます。アルバムの冒頭「抱擁」のインストから、いきなりサイケなサウンドからスタートしますし、「手紙」でもサイケ感のあるギターでドリーミーなサウンドが大きな魅力。「栄えた街の」ではカントリーやハワイアンの要素が見え隠れします。
個人的に耳を惹いたのは「閃きは彼方」でしょう。ミディアムテンポで聴かせるナンバーなのですが、ソウルフラワーユニオンあたりを彷彿とさせるようなアイリッシュトラッドなサウンドを取り入れており、郷愁感たっぷりに聴かせてくれます。さらに「腕の中でしか眠れない猫のように」はNIRVANAを彷彿とさせるようなヘヴィーなギターサウンドからスタート。メロは郷愁感あるポップに仕上がっているのですが、ギターリフが終始流れており、ヘヴィーロックの要素が垣間見れる作品になっています。
シンプルなサウンドで空間を聴かせるようだった前作に比べると、音数は増した感もありますが、一方で楽曲のバリエーションも増えた感のある作品で、彼女のあらたな一歩を感じさせます。文句なしの傑作アルバムですし、今年を代表する傑作の1枚とも言えるだけの内容だったと思います。女性シンガーソングライターが好きな方はもちろん、ロックリスナーにも是非とも聴いてほしい傑作です。
評価:★★★★★
TWO-MIX 25th Anniversary ALL TIME BEST/TWO-MIX
今や「大御所」レベルの実力派声優となった高山みなみが作詞家の永野椎菜と組んで活動したユニットTWO-MIX。いわば声優系ミュージシャンの走りのような存在で、90年代後半にヒット曲を次々とリリースしたものの2004年に活動休止。その後は散発的な活動はあったものの、まとまった形での活動はありませんでした。そして昨年、結成25周年を記念してプロジェクトが始動。コロナ禍の影響などでリリース延期にもなっていたのですが、このたび無事、25周年記念のオールタイムベストがリリースされました。
なにげにかつてはデジタルロックの流れで彼女たちの曲も聴いていたので、久しぶりに懐かしさもあってこのベスト盤を聴いてみました。確かに「JUST COMMUNICATION」や「RHYTHEM EMOTION」など懐かしいなぁ、と思いながら聴いていたのですが、うーん、ある程度予想はしていたのですが、やはり今聴くと少々厳しいものが・・・。1曲1曲は悪くはないのですが、ベタな四つ打ちのビートに、どの曲もさほど大差のない曲調で、聴いていて徐々に飽きが来てしまう・・・。せめて1枚に圧縮されていればそれなりに聴けたとは思うのですが。
評価:★★★
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