率直な女性の本音を歌う
Title:純愛クローゼット
Musician:コレサワ
熊をモチーフとした愛らしいキャラクターを前面に押し出しているのも印象的な女性シンガーソングライター、コレサワの約2年半ぶりとなるニューアルバム。基本的には顔出しNGということで、「れ子」という熊のキャラクターの被り物をインタビューの時でも被っているようで、その独特なプロモーション活動もインパクトがあります。(もっとも、インディーズ時代は顔を出していたようで、彼女の容姿はネット上で容易に見つけ出せるのですが・・・)
楽曲的には比較的シンプルなポップミュージックがメイン。以前はギターロックの色合いが強く、今回のアルバムでも1曲目の「あたしが死んでも」をはじめ、「右耳のピアス」などギターサウンドを前に押し出した曲も目立つのですが、一方では「愛を着て」や「Drama」などピアノを軸として聴かせるような楽曲や、今どきのエレクトロポップに仕上げた「スーパーでデート」、アコギで聴かせる「いただきます」など、バリエーションが出てきた・・・というよりは、ギターロックに縛られないような、ソロらしい楽曲が増え、「シンガーソングライター」としての様相がより強くなってきたように感じます。
ただ、彼女の大きな特徴は、そんなサウンド面よりもやはり女性の心境をストレートに吐露したその歌詞でしょう。かなり情熱的なラブソングがメイン。それも恋愛にのめりこんでいるような歌詞が多く、若干の「怖さ」も感じさせるのが特徴的で、例えば「あたしが死んでも」では、「私がもうすぐ死んじゃうといったらどうする?」という彼女からの質問に「いつでもそばにいるようにするよ」という回答に対して「一緒に来てはくれないのね」(=死んでくれないのね)と答える歌詞は、比較的明るく歌われるのですが、よくよく聴くと、かなり怖さを感じます。
「右耳のピアス」も、よくよく読むと、おそらく彼女がいる男性とつきあっている自分が、わざと彼女といるはずの彼の家にピアノを落としてくるという話で、結構怖いストーリー。「この恋はスクープされない」も、彼との2人切りという恋愛にのめりこんでいる姿を感じさせ、恋愛に対する強い情熱を感じさせます。
一方では、もっと素直でかわいらしいラブソングも印象的で、彼との夜、お風呂に一緒に入っている瞬間に幸せを感じる(ちょっと考えるとエロい歌詞の)「バスタイム」や、好きな人が出来て、世の中の景色が明るくなった女の子の心境をつづった「ミッドナイトでかけぬけて」、さらに「二人がいる場所ならそこが特別なステージ」と歌う「スーパーでデート」など、かわいらしい女の子の恋愛に対する心境描写も魅力的となっています。
そんな歌詞が魅力的な彼女ではあるのですが、正直なところ、歌詞のフレーズが後に残るか、と言われると微妙な点も否めません。一度聴いたら忘れられないようなインパクトのあるフレーズは少なく、それを補うようなメロディーラインの独自性やインパクトがあるかと言われると、その点も弱く・・・。こういってしまうと申し訳ないのですが、いまのままだと「aikoの下位互換」といった感も否めません。
もっとも、これで飛び道具のように、aikoとは全く違う方向性やサウンドを目指すというのも、それはそれで「彼女らしさ」がなくなってしまうのでしょうが・・・もうちょっと歌詞に「これは!」といったフレーズを登場させるか、誰にでも書けないような、コレサワらしい世界観を確立させるか・・・そうすれば、間違いなくブレイクできるミュージシャンだとは思うのですが。魅力的な歌詞を書いてくるミュージシャンですが、まだ乗り越えるべき壁は大きい、そうも感じてしまう1枚でした。
評価:★★★★
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