宇多田ヒカルの「すごみ」を感じる
Title:One Last Kiss
Musician:宇多田ヒカル
現在、大ヒット中の映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。あの映画が発表されるために、その微妙な結末が話題となっていた「エヴァンゲリオン」が、無事、完結したという意味でも大きな話題となっている映画のようですが、その主題歌「One Last Kiss」を歌っているのが宇多田ヒカル。本作は、その「One Last Kiss」をはじめとして、彼女が「エヴァンゲリオン」の映画に提供した楽曲を集めた企画盤的なEP。以前、「EVANGELION FINALLY」を紹介した時に、宇多田ヒカルの曲が未収録だった点が気になっていたのですが、こういう形で別枠でリリースするためだったのですね・・・エヴァのファンだけではなく、宇多田ヒカルのファンも惹きつけるという点では最適なやり方でしょう。
その「One Last Kiss」もまた、彼女の才能があふれる非常に優れた作品に仕上がっています。この楽曲について、特に話題となったのは冒頭の歌詞。
初めてのルーブルは
なんてことはなかったわ
私だけのモナリザ
もうとっくに出会ってたから
(「One Last Kiss」より 作詞 宇多田ヒカル)
ネット上でもあまりの言葉の強さで一部バズったみたいですが、確かにそこいらのJ-POPシンガーが百年たっても到達できないレベルの歌詞を簡単に書いてきてしまっています。この一文に限らず、非常にシンプルな言葉遣いながらもインパクトのあるラブソングを書いてきており、彼女の作詞家としての実力を感じますし、エレクトロサウンドに今風のビートミュージックの要素を取り入れたサウンドの面もかなり凝っている本作。この1曲だけで、宇多田ヒカルというミュージシャンが並のミュージシャンではないことがはっきりとわかります。
サウンド面で凝っているのは続く「Beautiful World - Da Capo Version-」でも同様で、ピアノの音色とエレクトロサウンドのバランスが実に絶妙に聴かせますし、その「Beautiful World」自体もピアノと打ち込み、ストリングスの音色が絶妙に絡み合い、抜けのある美しいサウンドが印象に残ります。
宇多田ヒカルといえば、デビュー当初は「本場のR&Bをそのまま取り入れたシンガー」みたいな建付けで話題となってのですが、いまやR&Bという枠組みを超えて、シンガーソングライターとして格の違いを見せつけている印象を受けます。上に書いた歌詞などは、正直、日本でいえば、ユーミンや中島みゆきクラスに匹敵する実力を感じさせますし、「Beautiful World」も転調を含めたメロディーラインの妙は実に見事。和風なバラードに仕上げている「桜流し」も彼女のメロディーメイカーとしての才を存分に感じさせる傑作になっています。
「エヴァンゲリオン」の主題歌などを集めたEPなのですが、彼女の「エヴァ」に対する思い入れもあるのでしょうか、いずれも宇多田ヒカルというミュージシャンの実力をフルに発揮した名曲が並ぶEPになっていました。最新作「One Last Kiss」も含めて、傑作揃いのEP。彼女のすごさを改めて思い知ったアルバムでした。
評価:★★★★★
宇多田ヒカル 過去の作品
HEAT STATION
This Is The One(Utada)
Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2
Fantome
初恋
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2021年」カテゴリの記事
- コンセプト異なる2枚同時作(2021.12.27)
- 彼女のスタイルを貫いたカバー(2021.12.18)
- メランコリックなメロが良くも悪くも(2021.12.13)
- リスタート(2021.12.06)
- 戦時下でも明るいジャズソングを(2021.12.05)
コメント