大滝詠一からの影響が顕著だが
Title:The Best of MAMALAID RAG 2009~2018 Vol.1
Musician:MAMALAID RAG
今回紹介するバンドは2000年代の前半に、「現代のはっぴいえんど」的な呼び名で一時期注目を集めていたバンドMAMALAID RAG。2002年にセルフタイトルアルバム「MAMALAID RAG」をリリース。一時期はシングルがCMソングに起用されたり、「喫茶ロック」などのコンピレーションに収録されるなど期待されたものの、いまひとつ大ヒットにはつながらず。結果、2007年に活動を休止し、その後、2008年にはギターボーカルの田中拡邦のソロプロジェクトとして活動が再開。メジャーを離れ、自身のレーベルからアルバムをリリースしましたが、ここ最近は正直、あまりその名前を聴かなくなってしまっていました。
そんな中、リリースされたのが今回のベストアルバム。「2009~2018」と記載されている通り、インディーズ移籍後のシングル及びアルバムからピックアップされた曲が並ぶベストアルバムとなっています。彼の作品はインディーズ時代の作品も含めて、基本的にはアルバムはフォローしてきたので、今回はじめて聴く形ではないのですが、今回のベスト盤であらためて彼の作品に触れて、予想していたよりも多くの良作が並んでいる点に、あらためて彼の実力を感じる結果となりました。
楽曲的には「現代のはっぴいえんど」という呼び名も高いように、はっぴいえんど直系のフォークロック、AORが大きな特徴となっています。というよりも、かなり露骨に大滝詠一からの影響を感じさせる曲調。1曲目「D・O・K・I」のイントロからしておもいっきりナイアガラサウンドですし、サビの転調やら歌詞の言葉遣いやら、完全に大滝詠一からの影響を受けまくっています。
10曲目の「Girl Friend」も完全に大滝詠一歌謡。ロマンチックさを感じる歌詞の世界も大滝詠一をなぞっている感じ。なによりも彼の歌い方がかなり大滝詠一の色を感じさせるだけに、その影響を顕著に感じてしまいます。今回のベストアルバム、確かに良作は多いと感じる反面、この大滝詠一からの影響がかなり顕著で、もうちょっとMAMALAID RAGだけの個性が欲しいと感じる部分も少なくありませんでした。一時期、かなり注目を集めつつも、結局ブレイクに至らなかったのは、ここらへんが大きな要因かもしれません。
とはいえ、MAMALAID RAGらしい個性が垣間見れる部分も少なくはなく・・・というよりは、彼なりに個性を出そうとしていた部分はいろいろなところで感じられ、例えば「時の過ぎゆくまま」などは、もっとウェットな歌謡曲テイストの強い作品となっており、はっぴいえんど路線とはまた異なる雰囲気を感じます。もっと顕著なのが、ラスト2曲「いつでもどこでも」と「Day And Night Blues」の2曲。ブルースの影響を思いっきり受けた曲調となっており、特に「Day And Night Blues」などは、オリジナル曲でありつつ、楽曲構成といい、歌詞といい、本格的な王道ブルースナンバーとなっており、彼の意外なブルースへの造詣をうかがわせます。もともと、2012年にブルースやルーツ志向の強いアルバム「Day And Night Blues」をリリースし、その方向性に意外さを感じたのですが、この並びで聴くと、彼の個性としてそれなりに機能していたように感じます。
もともと、「祈りの言葉を知らなければ」などで感じられるとおり、ブルースの要素はそれまでの楽曲でも要所要所で感じられ、MAMALAID RAGの音楽性のひとつの特徴となっています。このブルース路線とはっぴいえんど路線は、あまり上手く融合されず、それぞれ「別物」として機能しているのがちょっと残念なところで、この両者を上手く融合できれば、MAMALAID RAGの音楽がもっとおもしろくなったかもしれない・・・ということは感じてしまいました。
そういった気になる点はありますし、そういうマイナスポイントを考えると、確かにブレイクに至らなかった理由もわかるような気がします。実際、インディーズ時代のアルバムはアルバム単位ではいまひとつインパクトも薄く、あと一歩という印象も受けていました。ただ、ベスト盤で良作を並べて聴くと、やはりメロディーの良さといい、非常に優れたミュージシャンであるということに気が付かされます。Vol.1というタイトルですが、今後、Vol.2も出るのでしょうか?それも楽しみですが、それよりも次のオリジナルアルバムも聴きたなってきました。もうちょっと注目されてもいいミュージシャンだと思います。今後の活躍に期待したいところです。
評価:★★★★★
MAMALAID RAG 過去の作品
the essential MAMALAID RAG
SPRING MIST
LIVING
Day And Night Blues
So Nice
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