「今の時代性」を取り込んだ作品
Title:AAI
Musician:Mouse On Mars
ドイツのエレクトロミュージックデゥオ、Mouse On Marsの最新作。前作「Dimensional People」が高い評価を集めた彼らですが、その最新作がまた、ユニークな実験性を帯びた作品ということで話題となっています。今回のアルバムタイトル「AAI」は、Anarchic Artificial Intelligenceの略称。直訳すると「無秩序なAI(=人口知能)」となる本作は、そのタイトル通り、昨今話題のAIを作曲技法の中に取り入れて使用した作品となっているそうです。
そしてもう1つの特徴が、ボストン大学の英文学教授でアフリカン・アメリカン研究の第一人者であるルイス・シュデ=ソケイの言葉を取り入れて、至るところでサンプリングとして使用しているという点。昨今のブラック・ライブス・マター運動に対してMouse On Marsから呼応しているといったところでしょうか。
そういうこともあって、全体的にアフリカンなリズムが多様されているのも本作の特徴で、イントロ的な1曲目を挟んだ事実上の1曲目「The Latent Space」から、トライバルなリズムが展開されていきますし、静かな音色にスペーシーな雰囲気も漂う「Thousand To One」もトライバルなリズムが背後に鳴っています。メタリックなサウンドがどこかユニークな「Machine Rights」でもトライバルなリズムが顔をのぞかせますし、「Cut That Fishernet」も強いトライバルなリズムが特徴的な作品になっています。
そんなアフリカンなリズムがアルバムの中でひとつの軸となっているため、AIを作曲に用いているエレクトロサウンドでありながらも、一方ではどこか肉感の強く作品になっているというアンバランスさがユニークなアルバムと言えるでしょう。とかく無機質になりがちなサウンドの中で、肉感的なリズムを取り入れるというアンバランスさが、アルバムの中で大きなインパクトとなっているように感じました。
また、そんなトライバルな作品を含み、全体的には様々なアイディアが散らばっているバリエーションの多い作風も魅力的で、これはひょっとして作曲技法としてAIを使用した結果、むしろ自由度の高い作品に仕上がったのでしょうか?どこかトラッド的な要素も感じる「Walking And Talking」や、エレクトロノイズで疾走感のある「Go Tick」、警告のようなメッセージがインパクトある「New Life Always Announces Itself Through Sound」など、様々なアイディアを詰め込んだバラエティーに富んだ作品になっています。特に、今回、全21曲という曲数ながらも、1分に満たない曲や1分、2分程度の曲も多く、それだけ様々なアイディアを詰め込んだ作品になったといえるでしょう。結果として、全体的にスピーディーに展開し、飽きのこない作品に仕上がっていたと思います。
評価の高かった前作に引き続き、今回も傑作アルバムに仕上がっていた本作。AIの導入といい、ブラック・ライブス・マターに呼応した作風といい、まさに今の時代を反映させアルバムに取り込んだ作品と言えるでしょうし、そういう時代性こそポップミュージックのだいご味と言えるでしょう。2021年という今の時代だからこそ生まれた傑作でした。
評価:★★★★★
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