エレクトロサウンドにからむ歌声が美しく印象的
Title:Menneskekollektivet
Musician:Lost Girls
今回紹介するのは、ノルウェーのオスロー出身のシンガーソングライター、Jenny Hvalが、同じくノルウェーのミュージシャン、Håvard Voldenと組んで結成した新プロジェクト、Lost Girlsのアルバム。ちなみに聴きなれないアルバムタイトルはノルウェー語で「人間の集団」という意味らしいです。ちなみにJenny Hvalは以前、当サイトでもアルバム「Practice of Love」を紹介したことがあり、その時はその魅力的なサウンドに惹かれました。
そして今回のアルバムもまた、その美しいサウンドに惹かれる傑作アルバムに仕上がっていました。以前聴いたJenny Hvalはドリーミーなエレクトロサウンドに重なる彼女の美しい歌声が大きな魅力の作品でした。今回のアルバムも基本的な方向性はソロ作と同じ。今回のアルバムは44分という比較的コンパクトな長さながらも、そこに収録されている曲数はわずか5曲。10分を超える長尺の楽曲2曲と、6分超のそこそこ長い楽曲2曲、5分弱のコンパクトな作品1曲という構成ですが、それぞれに彼女たちのアイディアがつまった魅力的な作品が収録されていました。
長尺の中で展開する構成がユニークなのが1曲目のタイトルチューン「Menneskekollektivet」。最初は伸びやかなエレクトロサウンドをバックに「語り」からスタートするのですが、中盤あたりからトライバルな様相を帯びたリズムトラックが登場。後半にはさらにエレクトロトラックが重なり分厚いサウンドとなる中、Jenny Hvalが美しい歌声を聴かせる楽曲へと変化を遂げていきます。どこか感じるエキゾチックな雰囲気も魅力的な作品になっていました。
続く「Losing Something」もリバーブのかかったエレクトロトラックとハンドクラップ音でスペーシーに聴かせるエレクトロチューンなのですが、後半、Jenny Hvalの歌声が登場すると、荘厳な雰囲気が加わり、サウンドのイメージがガラッと変わるのもユニーク。そして3曲目は「Carried by Invisible Bodies」はリズミカルなビートが心地よいエレクトロダンスチューン。こちらにもJenny Hvalのハイトーン気味のハミングが美しくエレクトロサウンドと絡むのが印象的。疾走感あるダンスチューンになっていて、ここまでの曲の中ではいい意味でグッと「ポップ」な作品に仕上がっています。
そして「Love,Lovers」も15分強にも及ぶ長尺の曲で、こちらもトライバルなリズムトラックから静かにスタート。徐々にリズムトラックのテンポが速くなり、リズミカルなサウンドが心地よい楽曲になります。ここに重なるJenny Hvalの「語り」が清涼感あって美しいこと。後半は、ここにギターサウンドが加わり、彼女の歌声ともうまく絡み合い、ダイナミックなサウンドが展開されます。さらにラストの「Real Life」も同じく、軽快なリズムトラックにJenny Hvalの歌声が美しく重なるナンバー。こちらは後半にノイジーなギターサウンドが登場し、ロックテイストも強い作品に仕上がっています。
そんな訳で5曲が5曲とも様々な様相をリスナーに聴かせる楽曲なのですが、どの曲もエレクトロサウンドにJenny Hvalの清涼感ある美しいボーカルを上手くからめていて、独自のサウンドを作り上げている点が共通点ですし、かつ大きな魅力となっています。さらにエレクトロサウンドで実験的な作風に仕上げているのも関わらず、Jenny Hvalのボーカルの美しさと、意外とポップなメロディーラインがしっかりと流れてい入る点からも、小難しさがなく、ポップに聴けてしまうという点も大きな魅力でしょう。特にリズミカルなテンポを刻むダンストラックを持つナンバーも目立ち、いい意味での聴きやすさを作り出す大きな要素となっています。
実験性とポピュラリティーを上手く両立させた、非常に優れたポップアルバムの傑作といっても間違いない本作。ドリーミーだったJenny Hvalのソロ作同様、ドリーミーな雰囲気がありつつ、もっとリズムトラックを前に押し出した楽曲が目立ったような印象も受けます。わずか5曲44分という内容ながらも、魅力的なサウンドがつまった1作。最後まで楽しめた1枚でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Promises/FLOATING POINTS, PHAROAH SANDERS & THE LONDON SYMPHONY ORCHESTRA
Egloレーベル主宰者としても知られ、エレクトロミュージックシーンで活躍するFloating Pointsが、ジャズサックスミュージシャンの巨匠、Pharoah Sanders、さらにはロンドン交響楽団と組んでリリースしたアルバム。エレクトロミュージック、ジャズ、クラシックと異ジャンルのコラボが非常にユニークですが、楽曲的にもエレクトロサウンドを軸にしつつ、ジャジーな要素が加わったり、かと思えばストリングスやオーケストラアレンジが加わったりと非常にユニークな構成。全9トラックで1曲のような構成になっており、Floating Pointsの実験精神がよくわかる、興味深いコラボに仕上がっていました。
評価:★★★★
Floating Points 過去の作品
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