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2021年4月11日 (日)

名作ゲームサントラをセルフカバー

Title:MOTHER MUSIC REVISITED
Musician:鈴木慶一

1987年にリリースされたファミコン用ゲームソフト「MOTHER」。ゲーム自体も非常に評価が高い作品なのですが、鈴木慶一が手掛けた音楽自体の評価も高く、特に「EIGHT MELODIES」は音楽の教科書に採用されるなど、ゲーム音楽という枠組みを超えて高い評価を得ている1曲となっています。本作は、その鈴木慶一の音楽活動50周年を記念してリリースされた「MOTHER」サントラ盤のセルフカバーアルバム。以前リリースされたサントラ盤では歌モノについては海外の歌手を起用していたのですが、本作では鈴木慶一本人がボーカルとしてカバーしており、事実上、鈴木慶一のソロアルバムとなっています。

そういうこともあって、純粋に「MOTHER」のサントラを求めた場合には、ちょっと肩透かしを食らうかもしれません。ただ、純粋にポップスアルバムとして聴いた場合、鈴木慶一のセンスにあふれた非常に素晴らしいアルバムに仕上がっていました。「POLLYANNA(I BELIEVE IN YOU)」も、決してわかりやすいサビがあるわけではないのに、キュートでどこか印象に残るメロディーラインが、いかにも鈴木慶一といった感じですし、「THE PARADISE LINE」もホーンやストリングスなどを取り入れたユーモラスなサウンドでポップに聴かせるスタイルも、いかにも彼らしさを感じられる、聴いていてワクワク楽しくなってくる1曲となっています。

軽快なラテンの要素も入った「FLYING MAN」や、U-zhaanが参加し、タブラの演奏を聴かせてくれる「SNOW MAN」など、ワールドミュージックの要素も強く、この多彩な音楽性も大きな魅力。「ALL THAT I NEED(WAS YOU)」でエレクトロサウンドを入ったリズムで聴かせるポップなメロはどこかエキゾチックですし、鈴木慶一の魅力がまさにフルに発揮された傑作アルバムに仕上がっています。

最後を締めくくる「EIGHT MELODIES」も、ノイジーなギターからスタートするものの、その後、ピアノやアコギの音も入ってきて、どこかファンタジックでドリーミーな雰囲気が魅力的。どこかほんわかとした不思議な空気の中、アルバムは締めくくられます。

個人的にはこの「MOTHER」というゲームはプレイしたことはなく、サントラには思い入れもないのですが、今回、全面的に鈴木慶一のボーカルが入ったことにより、オリジナルのイメージが強い方には違和感もある部分もあるようです。ただ、一方では彼がボーカルを取ることによりアルバム全体としての統一感は出ていたように感じます。鈴木慶一のソロとしては文句なしの傑作アルバムに仕上がっており、まだゲーム音楽というジャンルが全く確立されておらず、ゲームというジャンル自体、今とは比較にならないほど低く見られていた1987年頃に、これだけ本気でゲーム音楽に取り組んでいたというのは驚く限りです。

さらに注目なのがDELUXE盤に収録されるDisc2。こちらは「MOTHER」のゲーム音源をそのまま収録したサンプルになっているのですが、こちらもまた、名曲が揃っている内容になっています。そして当時のファミコンのチープな音源でそんな名曲が奏でられるのですが、あれだけ音数が限られている環境の中、これほど表現力豊かに音楽を再現していることに驚かされる内容。鈴木慶一もさることながら、当時のゲーム技術者の力量も感じさせるサントラになっています。また、リアルタイムでプレイされた方にも、こちらの音源はあのころも想い出がよみがえってくるのではないでしょうか。

ゲームのサントラという枠組みを超えた、間違いなく傑作アルバムと言える本作。鈴木慶一のソロ作という色合いも濃いので、リアルタイムでゲームをプレイした方には最初、違和感を覚えるかもしれませんが、これはこれで文句なしの出来と言えるのではないでしょうか。30年以上前のゲームですが、間違いなく時代を超えた魅力を持った楽曲の数々。ゲームをプレイしたことない私はゲームもプレイしたくなってきてしまいました。

評価:★★★★★

鈴木慶一 過去の作品
シーシック・セイラーズ登場!
ヘイト船長回顧録
謀らずも朝夕45年
Records and Memories


ほかに聴いたアルバム

FIZZY POP SYNDROME/秋山黄色

新進気鋭のシンガーソングライター、秋山黄色の最新作。バンドサウンドで分厚い音を聴かせる疾走感あるサウンドが特徴的な、ロック志向のミュージシャンで、やさぐれた言語感覚も独特、と言われています。勢いのあるバンドサウンドは耳を惹きますが、一方、歌詞の世界観という側面では、今回のアルバム、前作ほど聴いていて「お?」と思えるようなフレーズには出会えなかったのが残念なところ。メロにしろサウンドにしろ歌詞にしろ、もう一歩、インパクトが欲しいと思ってしまうのですが、前作同様、あと一歩で傑作なりえた感のあるアルバムといった感じ。次回作以降に期待。

評価:★★★★

秋山黄色 過去の作品
From DROPOUT

AMUSIC/sumika

すっかり「人気バンド」としての地位を確固たるものとしてきているsumikaの3枚目となるアルバム。1曲目の「Lamp」や2曲目の「祝祭」、ラストの「センス・オブ・ワンダー」など、ホーンセッションを入れたり、トラッドミュージックの要素が入ったりと、祝祭色豊かな楽曲は非常に魅力的で勢いもあり、人気バンドとして脂がのってきている感もする一方、中盤の曲は無理にスケール感を入れようとする「なんちゃってミスチル」的な曲も目立ち、はっきりいってしまって無理にスケール感を持たせようとするJ-POPの悪い部分を取り入れてしまった感のある、ちょっと残念な曲も目立ちます。個人的には、もっとホーンやアコーディオンなどを取り入れた、トラッド系の曲にシフトした方がバンドとしての個性が出ると思うのですが。

評価:★★★★

sumika 過去の作品
Familia
Chime
Harmonize e.p

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