貴重な音源を収録した津軽民謡の記録
Title:真説じょんがら節 甦る津軽放浪藝の記憶
今回もまた、2020年のベストアルバムとして各種メディアで取り上げられた作品のうち、未聴だった作品を後追いで聴いた作品。今回はMUSIC MAGAZINE誌のワールドミュージック部門で10位を獲得したアルバム。ワールドミュージック・・・といっても、本作はタイトルからわかる通り、アフリカの作品でもアジアの作品でもありません。れっきとした日本の音楽。1920年代から40年代の戦前戦後の津軽民謡のSP盤を収録したアンソロジーアルバム。全2枚組のアルバムの中に、津軽民謡の貴重な音源が収録されたアルバムとなっています。
三味線と太鼓をバックに、伸びやかに歌い上げる津軽民謡は、もちろん今でも現役で、多くの民謡歌手が活躍されている分野。おそらく多くの方にとっては、どういう形であれ、多かれ少なかれ耳にしたことがある音楽であるかと思います。ただ一方で、しっかりとした音源でまとまって聴いているという方は、少なくとも当サイトに遊びに来てくださっているような世代では少ないのではないでしょうか。
今回紹介するアルバムに収録されている音源は、いずれも戦前戦後直後の音源。戦前及び戦後直後のSP盤ということで、曲によってはレコードのノイズが酷い曲もあることにはあるのですが、全体的には比較的、保存状況は良く、聴きやすい音源がまとまっていました。そしてあらためて、津軽民謡をこのような音源の形で聴くと、その魅力を強く感じることが出来ました。
まず大きな魅力のひとつは、なんといってもその歌声でしょう。力強く伸びやかで、張りのあるその歌声の迫力は、100年近くが経過した今のリスナーの心も大きく揺さぶるのではないでしょうか。アルバムの1曲目、工藤美栄子による「津軽じょんがら節」の伸びのある歌声にまずは耳を奪われるのは間違いなし。そして特にDisc1の中で印象に残るのが、12曲目「じょんがら節」から15曲目「津軽三下り」まででその歌声を聴かせる津軽家シワ(津軽家シワ子)など歌い手。どこか色っぽさを感じさせつつ、同時にドスが効いたようなパワフルなボーカルが強い魅力。CD付属のブックレットの曲紹介でも「澄んだ声と艶、切れのよさは、津軽の芸人中、最高だろう」と評されていますが、本作の中でもその歌声は非常に印象に残ります。
そしてもうひとつの主役が三味線。こちらも曲によってはかなりアグレッシブな演奏が魅力的で、Disc2の18曲目に収録されている「津軽あいや節」では切れのある澄んだ歌声の佐藤りつの歌も魅力的ですが、アグレッシブに勢いある演奏を聴かせる三味線も耳を惹きます。この三味線を弾いているのは高橋竹山。津軽三味線を全国に広めた第一人者と言われる方で、私でもその名前を聴いたことある方。確かに、このアルバムの中でも特に耳を惹く演奏が魅力的で、その実力を感じさせます。
また、本作で意外な発見だったのは、「じょんがら節」と一言で言ってもそのバリエーションの多彩さ。津軽民謡というと、「三味線に張り上げたこぶしを効かせた歌」というお決まりのスタイルを思い浮かべるでしょうし、実際、そのような典型的なタイプの曲も少なくありません。ただ一方ではDisc2の2曲目「津軽イタコ口ヨセ」のような、歌とほぼ太鼓のみで、「イタコ口ヨセ」を再現した不気味な雰囲気の曲もあったり、Disc2の8曲目「たんと節」のように、男女の掛け合いでコミカルさを感じさせる曲もあったりと、楽曲にもバリエーションを感じさせます。
さらに、その時代の出来事をそのまま歌詞として読みこんだ曲も少なくありません。Disc1の6曲目「津軽小原節」では、1920年にロシアのニコラエフスクで発生した、ソ連の赤軍パルチザン(共産主義のゲリラ部隊)による日本人捕虜殺害事件(尼港事件)をそのまま題材にしていますし、Disc2の15曲目「津軽小原節(上)」、16曲目「津軽よされ節(上)」では1932年の第一次上海事変の最中に、爆弾を抱えて敵陣を突破して自爆し、突撃路を切り開いたという爆弾三勇士を題材としています。この時代の津軽民謡が、決して「伝統芸」ではなく、現役の「ポピュラーソング」だったということを感じさせます。
私自身、決して普段、民謡をよく聴いているという訳ではないのですが、非常に聴きごたえのあるコンピレーションアルバムで、予想以上に楽しめた作品でした。企画としても貴重なSP盤を多く収録していますし、素晴らしい企画だったと思います。普段、民謡に縁のない方でも意外と楽しめるかも。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
#4 -Retornado- /凛として時雨
2005年にインディーレーベルよりリリースされた、彼ら初のフルアルバム「#4」をリマスターした作品。「#4」については今回はじめて聴いたのですが、疾走感あるギターサウンドとマイナーコード主体のメランコリックなメロディーラインを歌い上げる、切迫したようなボーカルという凛として時雨のスタイルはこの時期にすでに確立しており、曲によっては、確かに若々しさを感じさせる部分もあるのですが、今のアルバムと並べて聴いても全く違和感ない作品に。リアルタイムではほとんど売れなかったため、おそらく多くの方にとってははじめて聴く作品なだけに、「凛として時雨の新譜」的にも楽しめるアルバムでした。
評価:★★★★
凛として時雨 過去の作品
just A moment
still a Sigure virgin?
i'mperfect
Best of Tornado
es or s
#5
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