あの名盤から50年
Title:What’s Going On: The Detroit Mix
Musician:Marvin Gaye
2021年は、あのMarvin Gayeの名盤「What's Going On」から50年という区切りの年。いきなり年初から50周年を記念したアルバムのリリースが相次いでいます。
まずは「What's Going On」のアルバムの紹介。1971年にアメリカのシンガーソングライターでありソウルシンガーでもあるMarvin Gayeによって発表された「What's Going On」は、ソウルの名盤のみならず、全ポピュラーミュージックの中でも名盤中の名盤として名高いアルバムで、2020年選出の「ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・ベストアルバム500」では1位に選ばれるなど、非常に高い評価を受けている作品です。
もともと本作の表題曲である「What's Going On」は、当時、ベトナム戦争から帰還した弟から戦争の様子を聴き反戦歌として作り上げた1曲。モータウンの社長、ベリー・ゴーディは当初、同曲のリリースに難色を示したものの、楽曲は大ヒットを記録。その後リリースされた本作は、表題曲をはじめとしてアメリカの社会問題に鋭く切り込んだコンセプチュアルな内容になっていました。また、本作はモータウンでは異例となるセルフ・プロデュースに挑んだ作品で、この作品によりMarvin Gaye自体もアーティストとしての評価をグッと高めた作品になっています。
今回、50周年を記念して、同作の50周年記念盤がリリースされましたが、今回紹介するのは、それと同時にデジタルリリースされた作品。「What's Going On」の最終版はロサンゼルスでミックスされたのですが、同作はその直前、デトロイトにおいてミックスされたものの、作品としては却下となってしまった、「What's Going On」のアナザーミックスとなります。今回、初登場・・・ではなく30周年記念盤の時にリリース済の作品のようですが、50周年を記念して、あらためてデジタルアルバムとしてリリースされたようです。
オリジナルのアナザーテイクという、「熱心なファン向け」の作品と言えるかもしれませんが、原曲と聴き比べると、その差は素人でも一目瞭然。さらには、このバージョンが却下になり、ロサンゼルスでのミックスが採用された理由も比較的、容易にわかる内容になっています。
最終版と比べて明確なのは、このデトロイトミックス、あきらかに最終版に比べて重低音のリズムが強調されており、よりパーカッシブで、グルーヴィーなミックスに仕上がっています。おそらくこのバージョンが採用されなかったのは、最終版と比べて、歌の部分が若干後ろに下がってしまったからではないでしょうか。最終版を聴くと、より歌の部分が明確になったミックスとなっており、おそらく歌自身をより強調したかったマーヴィンにとっては、このデトロイトミックスではサウンドの主張がちょっと強すぎたのかもしれません。
ただ、今の耳で聴くと、重低音のリズムが強調された本作は、むしろ今風であり、ある種の新鮮味すら覚える内容になっています。最終版とどちらのバージョンがいいか、と言われると、確かに歌がはっきりと前に出た最終版の方がやはりよかったのかもしれません。とはいえ、このバージョンも非常に魅力的で捨てがたいのも事実。だからこそ、デトロイトミックスとして表に出てきたのでしょう。名盤の、また別の側面が、熱狂的なファンならずとも楽しめるアルバムになっていました。
評価:★★★★★
そして、同時にリリースされたのが本作。
Title:Funky Nation: The Detroit Instrumentals
Musician:Marvin Gaye
「What's Going On」をリリース後、当時のツアー・ドラマーだったハルトン・ボハノンと、彼が招集した腕ききのミュージシャンたちとともに1971年の夏の終わりから秋にかけて録音したインスト曲を収録したアルバム。こちらは40周年記念盤に収録されていたようですが、こちらも別途デジタルアルバムとしてリリースされました。
この作品がめちゃくちゃカッコいい!全体的には、2~3分程度の楽曲が並んでおり、デモ音源程度の出来栄えだったり、短いアイディアを披露しただけといった感じの曲もあり、作品としてリリースすることを意図した、というよりもジャムプレイを楽しんでいるという要素が強いのですが、それだけに難しいこと抜きにして、楽曲のグルーヴを楽しんでいるMarvinをはじめとしたバンドメンバーの姿を感じることが出来ます。
ファンキーでグルーヴィーな作品から、楽曲によってはロック、さらにはサイケロック的な要素を感じさせる曲、フュージョンっぽい曲まで様々収録されているのですが、「What's Going On」ではさほど感じることが出来ない、Marvin Gayeの「黒い」部分をより感じることが出来る作品集になっており、そういう意味でも非常に興味深いアルバムと言えるかもしれません。こちらも申し分ない傑作アルバム。デトロイトミックスともども、熱心なファンでなくてもMarvinの魅力をより知りたいという方にはお勧めしたい作品でした。
評価:★★★★★
Marvin Gaye 過去の作品
You're The Man
What's Going On Live
ほかに聴いたアルバム
Uncivil War/Shemekia Copeland
アメリカのモダンブルースシンガーによる新作。ジャケット写真からも想像できるように、パワフルなボーカルスタイルが大きな魅力。全体的にはブルースを基調とした作品が多い反面、ストーンズの「Under My Thumb」のカバーがあったり、「She Don't Wear Pink」のようなロックンロール色の強い曲があったり、全体的にはギターを前に押し出した、ルーツ志向のロック色の強いアルバムになっていました。ブルースとロックのちょうど中間に位置するようなアルバムといった感じでしょうか。ただ、それ以上に彼女の力強いボーカルに圧巻された1枚でした。
評価:★★★★
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