ボカロP出身組としては頭ひとつ出た感が
Title:創作
Musician:ヨルシカ
ここ最近、ネット上で初音ミクなどのボーカロイドソフトを使って曲を発表していたいわゆるボカロPが、ボカロではなく人間のボーカリストを用いて曲をつくり、ボカロ支持層だけではなくもっと広いリスナー層を想定してデビューしてくるミュージシャンがグッと増えてきました。言うまでもなく米津玄師の大ヒットが契機となり、第2第3の米津玄師を探せ、的な結果起こった現象だと思いますが、それに続いたミュージシャンたちも、昨年大ヒットを記録したYOASOBIにように、ヒット曲が続いています。
そんなミュージシャンたち、YOASOBI、ずっと真夜中でいいのに、Eve、須田景凪、そして今回紹介するヨルシカがあげられると思います。米津玄師は、そんな中でまさに別格だと思うのですが、人気面はともかく、楽曲のクオリティという意味ではそれに続く位置にいるのがヨルシカではないでしょうか。メロディーにしろ歌詞にしろサウンドにしろ、そのほかのボカロP出身組のミュージシャンたちに比べると、頭ひとつ出ているような印象を受けます。
まさにそんな思いを強く感じたのが今回紹介する彼ら1枚目となるEP「創作」。直近のオリジナルアルバムのタイトルが「盗作」で、内容的にも盗作を行う作家を描いたコンセプチャルなアルバムだったのですが、同作と地続きになっているような作品になっています。まず印象的なのがその歌詞の世界。1曲目の「強盗と花束」がまず非常にインパクトのある歌詞になっており、内容的には社会の倫理観を問いているという、結構、過激な内容。「強盗と花束に何かの違いがあるのですか」という歌詞もかなりインパクトがありますし、内容的には昨今話題になっている「うっせぇわ」よりも過激と言えるかもしれません(笑)。
さらに印象に残ったのがサウンド面で、タイトルチューンでもある「創作」は、インストチューンなのですが、ピアノの美しい音色と水の音などをサンプリングしたサウンドで、爽やかな森の中にいるような雰囲気を感じるサウンドがまず印象的ですし、それに続く「風を食む」も、消費社会を題材として歌詞もインパクトがあるのですが、アコギの音と打ち込みをベースとしたシンプルなサウンドは非常にエッジが効いており、強い印象に残ります。
前作まで気になっていたネット初のミュージシャンにありがちな、頭でっかちな歌詞や、同じくネット初ミュージシャンに見られるマイナーコード主体の若干一本調子な作風といったマイナス面は本作でも感じる部分があり、その点は気にかかる部分もあったのですが、本作はわずか5曲のEPということもあり、そんな部分が大きなマイナスとなる前に作品が終った、といった感もあります。そういった意味ではヨルシカのプラスの面だけがよりはっきりと前に出たアルバムだったように感じました。
そんな訳で気になる点はあったものの、ボカロP出身組では(米津玄師を除いて)ミュージシャンとして頭ひとつ出ているように感じた作品になっていました。今後はさらにその実力を磨き、米津玄師に続く大物ミュージシャンになっていくのか、これからの活躍に期待したいところ。次のオリジナルアルバムも楽しみです。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
本日紹介するのは、先日リリースされた山下達郎のリマスター再発盤2作。
POCKET MUSIC (2020 Remaster)/山下達郎
1986年にリリースされた8枚目のオリジナルアルバムの再発盤と
僕の中の少年 (2020 Remaster)/山下達郎
1988年にリリースされた9枚目のオリジナルアルバムの再発盤。どちらも爽やかなサマーポップといった印象で、いい意味で、今に続く山下達郎らしさが確立されていることを感じます。サウンド的には良くも悪くも80年代的な空気感を強く感じるのですが、リマスターによって音はかなりよくなった模様。どちらも間違いなくAORの名盤といった感じで、リマスター盤リリースを機に、あらためて聴いておきたい作品です。
評価:どちらも★★★★★
山下達郎 過去の作品
Ray of Hope
OPUS~ALL TIME BEST 1975-2012~
MELODIES(30th Anniversary Edition)
SEASON'S GREETINGS(20th Anniversary Edition)
Big Wave (30th Anniversary Edition)
COME ALONG 3
| 固定リンク
「アルバムレビュー(邦楽)2021年」カテゴリの記事
- コンセプト異なる2枚同時作(2021.12.27)
- 彼女のスタイルを貫いたカバー(2021.12.18)
- メランコリックなメロが良くも悪くも(2021.12.13)
- リスタート(2021.12.06)
- 戦時下でも明るいジャズソングを(2021.12.05)
コメント