どこか「ヤバさ」を感じさせるサウンド
Title:MOOD
Musician:本日休演
今回紹介するのは、某所で紹介されて気になった京都在住のロックバンド、本日休演のニューアルバム。音源はおそか、名前もほとんどはじめて聴いたバンドで、ほとんど前情報なしでアルバムを聴いてみました。この本日休演というバンドは、現在、岩出拓十郎(g,vo)、在泉鮭(b,cho)、樋口拓美(ds,cho)の3人からなるバンド。もともとは5人組バンドとして2014年にデビューしたそうですが、その後、メンバーの一人、埜口敏博が急逝。さらにはギターボーカルだった佐藤拓朗が脱退し、現在に至っているようです。
それでこのアルバムではじめて彼らの音源に触れたのですが、これが非常におもしろい音を奏でるバンドで、一気に気になるバンドとなってしまいました。彼らの楽曲を一言で言うと・・・若干語弊があって、イメージ論的な言い方になってしまうかもしれませんが、「アングラ系フォークロックバンド」といった言い方が出来るでしょうか?フォーキーな雰囲気のあるメロディーラインに、ヘヴィーなバンドサウンドや、サイケなサウンドが多く入っており、一種独特な世界観を醸し出すバンドとなっています。
そもそもエンジニアとして、坂本慎太郎やOGRE YOU ASSHOLEを手掛ける中村宗一郎が参加している、という点で、彼らが目指す方向性がわかるのではないでしょうか。ゆらゆら帝国、坂本慎太郎、OGRE YOU ASSHOLEあたりが好きなら、間違いなく気に入りそうなタイプのバンドだと思います。比較的、サウンドの輪郭がクリアになっており、さらにサウンドの間の空白を明確にするようなサウンドメイキングは、彼らに共通する点も感じます。
ただフォーキーでよりメランコリックさを感じさせるメロディーやサウンド、もっとガツンとするようなバンドサウンドを聴かせるスタイルは、もちろん坂本慎太郎やOGREとは異なる、彼らだけの個性を感じさせます。1曲目「ウソの旅」もフォーキーでメロディアスな前半から終盤にはファズギターでノイズを聴かせるギターがガツンと加わりますし、そのまま2曲目「アレルギー」もギターノイズが要所要所でガツンと入ってくるヘヴィネスさを持った楽曲になっています。
一方では「何もない日」では横ノリでメロウな雰囲気の曲になっていたり、「線路」ではドリーミーなサイケポップのような曲調になっていたり、「全然、静かなまま」ではオールドスタイルなロックンロールのような曲になっていたり、サイケフォーク的な曲調を軸としつつ、全体的にはサウンドのバラエティーは豊富。「砂男のテーマ-Midnight Desert Surfin'-」もノイジーなギターサウンドを入れつつ、ちょっとレトロなサーフロックがユニークですし、「ロンリネス」もヘヴィーなギターサウンドを入れつつ、サックスやドラムスにジャズの要素を入れてくるのがユニークに感じます。
また、メロディーラインにもポップさを兼ね備えており、いい意味での聴きやすさもあります。ダウナーな雰囲気ながらも素朴なラブソングに仕上げている「Hey Baby Love」なんかは曽我部恵一あたりにつながりそうなポピュラリティーを持っていますし、終盤の「天使の沈黙」もちょっとレトロでフォーキーながらもテンポよいポップなメロが展開されています。ラストの「夏の日」も郷愁感のあるメロディーが心地よい楽曲に仕上がっています。
そして今回、同時にリリースされたのがライブ盤。
Title:LIVE 2015-2019
Musician:本日休演
ベストライブ盤のような内容になっているこのベスト盤は、3人組となった彼らが過去の活動を総括するようなアルバムと言えるのかもしれません。ただ、ライブ音源なだけに、やはりオリジナル音源よりも、よりバンドサウンド色が強いアレンジとなっています。「MOOD」に収録されている「アレルギー」は、やはりよりバンドサウンドを前に押し出したヘヴィーなサウンドに。冒頭を飾る「アラブのクエスチョン」もギターノイズを前面に出したダイナミックなバンドサウンドが魅力的な楽曲になっています。
ただ、サウンド的なバリエーションの多さと、メロディーラインの魅力は本作でも強く感じます。「MOOD」に収録されている「何もない日」ではメロウなメロを聴かせつつ、「けむにまこう」は裏打ちのリズムで軽快に聴かせるナンバー。「全てにさよなら」は、歪んだギターサウンドと力強いドラムで、よりサイケ色の強い楽曲に。「すきま風の踊り子」はテンポよい、本日休演流のダンスナンバーとも言える曲になっていますし、ラストの「ごめんよのうた」は郷愁感あるメロが魅力的なナンバーに仕上がっています。
妙に耳に残るメロディーラインとバラエティーあるサウンド、そしてどこか「アングラ」風な部分にある種の「ヤバさ」を感じられ、「MOOD」、ライブ盤、どちらも非常に楽しむことが出来た傑作アルバム。特に「MOOD」は年間ベスト候補の傑作アルバムだったと思います。こんな素晴らしいバンドがいたとは、今回はじめて知りました。本日休演、今後の活動からも目が離せなさそうです。
評価:どちらも★★★★★
ほかに聴いたアルバム
ANGLE/80kidz
途中、EP盤やコンピレーションアルバムのリリースはあったものの、オリジナルとしては約5年ぶり、久々となるエレクトロユニット80kidzのニューアルバム。軽快でリズミカル、ポップなメロディーラインの流れるエレクトロチューンが並んでおり、外連味のないエレクトロポップが楽しめる作品に。目新しさよりもリスナーを徹底的に楽しませるというスタンスは以前から変わっていません。ただ、それにしても、ちょっと陳腐さすら覚え、もうちょっと新しい音が聴きたかったような印象も・・・。
評価:★★★★
80kidz 過去の作品
THIS IS MY SHIT
THIS IS MY WORKS
WEEKEND WARRIOR
TURBO TOWN
80:XX-01020304
FACE
Gone EP
5
80:06
80:XX-05060708
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