スローペースながらも着実な活動
Title:30
Musician:LITTLE CREATURES
前作「未知のアルバム」から約5年半ぶりとなるLITTLE CREATURESのニューアルバム。その前作も約5年8ヶ月ぶりでしたし、その前々作も約5年5ヶ月ぶりとなります。今回のアルバムはデビュー30周年を記念するニューアルバムなのですが、そうすると、そのうち半分の15年の間にわずかアルバム4枚しかリリースしていない計算になります。もっとも、これが8枚目のアルバムとなるので、計算的には「合っている」ことになりますが・・・寡作ながらも一方では決まったペースでのリリースは守り続けており、ここらへんが息の長い活動を続ける秘訣ということになるのでしょうか。
そんな彼らのニューアルバムですが、サウンド的にはまさに30年間という積み重ねを感じさせる、そぎ落としたようなサウンドが特徴的となっています。とはいえ、今回のアルバム、まるで断捨離したようなソリッドな作品が特徴的だった前作「未知のアルバム」のような、研ぎ澄まされたサウンドといった感じはありません。ただ、基本的にシンプルなスリーピースの音色がメイン。激しいヘヴィーなギターサウンドもなければダイナミックなドラミングを力強く聴かせるというサウンドでもなく、シンプルに息の合ったバンドサウンドを聴かせる、というスタイルを貫いています。
もっといえば、必ずしもシンプルなバンド演奏に拘っている・・・という訳でもなく、「ことわり」ではシンセの音色もなっていたりもしますので、そういう意味では必ずしもこだわっているわけではないのでしょう。ただ、このいい意味でのこだわりのなさが故に、必要以上に力が入っていない、肩の力の抜けたアルバムに仕上がっています。また、こういう変なこだわりのなさもバンドが長く続く秘訣なのかもしれません。
また、基本的にシンプルなギターロックがメインなのですが、その中でも前述の通りにシンセの音色と取り入れた「ことわり」のような曲もあれば、「ハイポジション」のような疾走感あるバンドサウンドで聴かせるギターロックナンバーもあれば、最後の「踊りかける」ようなファンキーなギターを聴かせる曲もあれば、とバラエティーもしっかり感じることが出来ます。決してわかりやすい派手なメロディーやサウンドがあるわけではないのですが、タイトなサウンドと合わせて、最後まで飽きることなく楽しめるアルバムに仕上がっています。
さらに歌詞に関してもシンプルにそぎ落とされた歌詞が特徴的なのですが、かといって決して難しくなるわけではなく、主張が比較的ストレートにつたわってくるのも印象に残ります。まず印象に残るのが「速報音楽」。音楽賛歌ともいえるこの曲は
「またこの響きあえる仲間たちと歩いて
新時代を踏み鳴らし音楽を鳴らせ」
(「速報音楽」より 作詞 青柳拓次)
という歌詞は、このコロナ禍の中で自由にみんなで音楽を鳴らせない今の状況の中での未来の希望のように感じます。
また「大きな河」も今の時代を映しているような楽曲となっており、
「うまいことゆって不満をかきあつめ
そんなコトバで騙されるわけないだろう」
「船の仕組みを作る 賢く生きる誰かに
また振り落とされ、弾かれ、泳ぐ、畝る大きな河」
(「大きな河」より 作詞 青柳拓次)
も、今の「格差社会」を象徴するような歌詞となっているように感じます。
決して派手ではないものの、ベテランらしい、いい意味での安定感と余裕も感じさせる傑作アルバム。まさに5年待ったかいのあったアルバムと言えるかもしれません。次のアルバムはもっと早く聴きたいのですが、でもこれだけのマイペースだからこそコンスタントな活動が続けられるんでしょうね。また5年後の傑作を、このアルバムを聴き続けながら待っていたいと思います。
評価:★★★★★
LITTLE CREATURES 過去の作品
LOVE TRIO
OMEGA HITS!!!
未知のアルバム
ほかに聴いたアルバム
アイラヴユー/SUPER BEAVER
アルバム単位で聴くのはこれが初となる4人組ロックバンドの7枚目となるフルアルバム。基本的には、今時なギターロックバンドといった感じなのですが、サウンドは予想していたよりもヘヴィーでパンキッシュ。メロディーラインにはメランコリックさもあり、どこか和風の要素も。骨太な歌謡ロックバンドといった様相もあるのですが、ここらへん、THE BACK HORNみたいに、もっと骨太でメランコリックな路線に突き進むのか、もっと軽快なギターロックに進むのか、ちょっと中途半端さも感じる部分もあるのですが・・・ただ、ロックを聴いたという聴き応えはある1枚でした。
評価:★★★★
Billow/須田景凪
ポスト米津玄師的な売り出され方をしているボカロP出身の男性シンガーソングライターの新作。悪い意味でいかにもボカロ出身者といったイメージのマイナーコード主体のメロディーラインは正直、ちょっと一本調子。米津玄師の背中は遠いなぁ・・・と感じてしまいました。ただ、前作で感じたボーカルの軽さはさほど気にならなくなり、また、郷愁感あるメロを聴かせる後半はちょっとおもしろいかも、とも思ったりして、次回作に期待は残すアルバムになっていたと思います。そろそろ大化けしてほしい感もありますが。
評価:★★★
須田景凪 過去の作品
porte
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