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2021年3月 9日 (火)

「理想」と「現実」の狭間で

Title:GRADTI∞N
Musician:Little Glee Monster

2012年に行われた「最強歌少女オーディション」によって選出されたメンバーにより結成された女性コーラスグループ、Little Glee Monster。2014年のデビュー後は、シングルアルバムともにコンスタントにヒットを獲得。2017年以降は4年連続紅白歌合戦に出場するなど、確実にその地位を確保しています。今回紹介するのは、そんな彼女たちの初となるベストアルバムとなります。

「歌が上手い女の子を集めたグループ」というのが「売り」のLittle Glee Monster。とはいえ、昨今の(というよりも彼女たちがデビューした頃の)音楽業界の雰囲気といては、いろいろな売り出す上での建前を押し出しつつ、実質的にはアイドルグループ、というグループが多々ありました。ただ、彼女たちに関しては、間違いなく「歌が上手い」という点でのみ売り出しているグループ。「アイドル的」な売り出しは一切なく、あくまでも「歌」で勝負している拘りを感じさせてくれます。

そんな拘りのようなものはその楽曲にも感じることが出来ます。彼女たちのファンは、おそらく中高生あたりがメインで、あまり洋楽などを聴いたりするタイプではなく、あくまでも「流行のJ-POP」の一貫として彼女たちの曲を聴いているファンが多いような印象を受けます。ただその一方で、本格的に彼女たちのボーカルを生かすために、比較的洋楽、それもソウルやファンクテイストの強い曲も彼女たちは積極的に歌っています。

今回のベスト盤は3枚組になっており、Disc1では2ndアルバム「Joyful Monster」までの、彼女たちが6人組だった頃の楽曲を集めた「Sing 2020」、Disc2はタイトル通り、グルーヴィーな曲を集めた「Groovy Best」、Disc3はメロディアスな曲を集めた「Harmony Best」となっています。「Sing2020」の比較的初期のナンバーは、いわゆるJ-POP色が強い楽曲が多いのですが、そんな中でも「Hop Step Jump」などではソウルミュージックからの要素を感じますし、「青春フォトグラム」も卒業をテーマとした、ある種、典型的なJ-POPチューンなのですが、ゴスペル的な要素を入れてきたりと、初期のナンバーからソウルミュージックへの憧憬を感じさせる部分は少なくありません。

その方向性が典型的なのがDisc2で、ファンキーの要素を入れた「恋を焦らず」(楽曲自体、シュープリームスの「恋は焦らず」からとっていますし)や、アップテンポでソウルフルな「Baby Baby」、力強いボーカルが印象的なファンクチューン「Get Down」など、ソウルやファンクの要素を強く感じさせる曲が並びます。さらには「SPIN」では、今どきなトラップの要素をサウンドに入れてきていますし、「I Feel The Light」に至っては、Earth,Wind&Fireとの共演を実現。ソウルやファンク志向を強く感じさせる曲が少なくありません。

実際、彼女たちのボーカルをより生かしたナンバーというと、ここらへんのソウルやファンク、あるいはゴスペルなどの要素を入れた楽曲ですし、そういうこともあってか、おそらくは理想形としては本格的なソウルやファンクのコーラスグループとして彼女たちを育てていきたい、という方向性も感じます。ただ一方で、良くも悪くも彼女たちのメインのファン層は、やはり普段、ソウルやファンクなどを聴かない、J-POPメインで聴いているようなファン層がメイン。そのため、ベタなJ-POPチューンも目立ちますし、その傾向は特にDisc3の収録曲でより顕著でした。

ここらへん、例えばドリカムなんかは、ブラックミュージックの要素を上手く取り込みつつ、いい意味でJ-POP的なポップな曲調に着地させている独自のドリカムサウンドを構築しているのですが、彼女たちの場合は、彼女たち自体が楽曲を作っている訳ではないこともあって、そのような上手い着地位置は見つけていません。正直なところ、彼女たちを取り巻く作家陣を含めて、理想的としてのソウルやファンクのコーラスグループと、現実としてのJ-POPグループとしての狭間で、Little Glee Monsterの方向性を模索している最中というような印象を受けました。

彼女たちのボーカルにしても、現状、声量やピッチの安定感など、技術的な巧さが先に立っており、表現力という点においては、まだ拙さを感じてしまう印象は否めません。ただ、それは今後、いろいろな意味で経験を積んで、徐々に身に着けていくでしょう。そんな中で、音楽的な方向性を含めて、徐々にLittle Glee Monsterとしてのスタイルを確立していくような予感がします。現状は、いろいろな意味で中途半端さが残るグループではあるのですが、逆にそれだけ成長途上のグループであることは間違いなく、今後、彼女たちがどのような成長を遂げていくのか、非常に楽しみでもあります。今回のベスト盤は、そんな彼女たちの成長途上な部分が良くも悪くも多く出たアルバムといった印象があります。これから彼女たちがどのような歩みを進めていくのか・・・今後も注目したいところです。

評価:★★★★

Little Glee Monster 過去の作品
Joyful Monster
juice
FLAVA
I Feel The Light
BRIGHT NEW WORLD

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