あれ?ギターが鳴ってないぞ??
Title:OK HUMAN
Musician:Weezer
日本でも人気のパワーポップバンド、Weezer。ただ、ここ最近はストレートなパワーポップのアルバムというよりは異色作と言うべき作品が続いています。前々作「Weezer(Teal Album)」はカバーアルバム、さらに前作「Weezer(Black Album)」では様々なジャンルを取り入れたポップアルバムに仕上がっていました。そしてそんな中、次にリリースを予定していたアルバムがヴァン・ヘイレンへのオマージュを兼ねたハードロックなアルバム「Van Weezer」を予定していた・・・そうなのですが、コロナ禍の中でツアーが中止になったことに伴い制作も中断。そしてリリースされたのが本作だそうです。
そのように急遽リリースされた本作ですが、これがまた、彼らにとっては異色作に仕上がっていました。なんと、本作は全編、ストリングスやピアノをフューチャーした作品。全くギターの音が鳴っていません!当初予定していたアルバム「Van Weezer」がハードロック志向のアルバムでしたので、ある意味、その真逆とも言える内容に、少々驚いてしまったファンも少なくないのではないでしょうか。
全編ストリングスやピアノによる鮮やかな色どりがされたポップスアルバムということで、かのビーチボーイズの名盤「PET SOUNDS」を彷彿とさせるコメントもよく見受けられます。実際、1曲目の「All My Favorite Songs」は、バンドサウンドにストリングスを重ねた分厚いアレンジがほどこされたミディアムポップとなっており、ビーチボーイズ以上にビートルズからの影響も感じる、メロディーの良さがキラリと光る、正統派のポップソングに仕上がっています。
それ以降も、ストリングスやピアノアレンジでメロディーラインがより際立つアレンジだからこそ、Weezerリヴァース・クオモのメロディーセンスの光った曲が並びます。まず前半で印象に残るのが「Numbers」。ストリングスで静かに聴かせる、ファルセット気味のボーカルで歌い上げる泣きメロが胸をうつ楽曲に仕上がっています。タイトルそのまま「Playing The Piano」もピアノの美しいメロをバックに聴かせ、歌い上げるナンバー。バンドによる曲というよりも、エルトン・ジョンあたりのシンガーソングライター系の楽曲を彷彿とさせる曲になっています。
個人的にメロディーラインが壺にはまったのが「Mirror Image」で、ゆっくりと聴かせる祝祭色の豊かなメロディーラインが強いインパクト。楽曲的には1分強の短い曲で、サビのフレーズのワンアイディアだけの曲なのですが、このゆっくりと上がって下がっていくフレーズ、個人的に壺にはいりました。
後半で印象に残ったのが「Here Comes The Rain」でしょう。個人的にバックに流れるピアノのフレーズがBilly Joelを彷彿とさせて壺にはまった1曲。爽やかでポップなメロディーラインに、こちらもリヴァースの才能を感じさせる楽曲。ストリングスとピアノ、ポップなメロディーラインのバランスも絶妙にマッチしていました。
ちょっと気になったのはポップなメロディーラインにストリングスアレンジでスケール感を付加するという方法が、いかにもJ-POP的という部分で、若干大味な部分も見受けられました。また、リヴァースといえばJ-POPからの影響も受けているミュージシャンですが、このアルバムでも「Aloo Gobi」などはJ-POP的なメランコリックさも感じられ、いい意味で日本人好みにもマッチしたアルバムと言えるかもしれません。もっとも、全体的には一部のJ-POPチューンにみられる、ただスケール感を出すだけの無意味なストレングスアレンジというのは見受けられず、そういう意味ではアルバムとしてのバランスもよく、Weezerの実力もしっかりと感じられるアルバムに仕上がっていました。
そんな訳で、非常に優れたポップの傑作として仕上がった1枚。リヴァースのメロディーメイカーとしての才が余すところなく発揮された作品だったと思います。ただ、個人的には、前作でも感じたのですが、そろそろガツンと聴かせるロックなアルバムを期待したいところ。そういう意味では、次回作は是非、「Van Weezer」を聴いてみたいなぁ。そちらも楽しみです。
評価:★★★★★
WEEZER 過去の作品
WEEZER(Red Album)
RADITUDE
HURLEY
DEATH TO FALSE METAL
Everything Will Be Alright in the End
WEEZER(White Album)
Pacific Daydream
Weezer(Teal Album)
Weezer(Black Album)
ほかに聴いたアルバム
Madre/Arca
Arcaの4曲入りのEP。直近のアルバム「KiCk i」ではノンバイナリーという彼女のパーソナリティーを前に押し出した作品になっていましたが、本作も彼女の中性的なボーカルを生かした、Arcaという個人の存在を前に押し出した作品になっています。また、全体的に荘厳な雰囲気の作品で統一されており、どこかダークな雰囲気の、彼女の心の奥底をのぞき込むような、そんな作品になっていました。
評価:★★★★★
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