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2021年3月 8日 (月)

名カバーが並ぶトリビュート盤

Title:TRIBUTE TO TRICERATOPS

1997年にシングル「Raspberry」でデビュー。今年、デビューから24年目を迎えたロックバンド、TRICERATOPS。大ヒット曲こそ、1999年の「GOING TO THE MOON」以降、目立った大ヒットはないのですが、「踊れるロック」をテーマとしたルーツ志向でかつポップなロックミュージックと、魅力的なライブパフォーマンスで根強い人気を持続している彼ら。そんなトライセラの楽曲を数多くのミュージシャンがカバーした、初のトリビュートアルバムがリリースされました。特に区切りの年でもないこのタイミングでなぜ?という印象も受けるのですが、2018年以降、活動休止状態に入っていた彼らが、昨年末から活動を再開。その活動再開の嚆矢としてのアルバム、ということなのかもしれません。

数多くのミュージシャンがトライセラの曲をカバーしたこのトリビュートアルバムですが、この手のトリビュートとして非常に理想的な、素晴らしいアルバムに仕上がっていました。それぞれのミュージシャンがそれぞれの個性を発揮しつつ、一方では原曲の良さをきちんと残したカバーになっており、カバーしたミュージシャンとトライセラのそれぞれの個性が、ほどよくバランスされた名カバーばかりが収録されたアルバムになっています。

まさにそんな典型例が1曲目の奥田民生による「ロケットにのって」でしょう。ヘヴィーなバンドサウンドによるアレンジは原曲からほとんど変わりませんが、奥田民生のボーカルが乗ることにより、完全に奥田民生の曲になっています。さらに続く「2020」は、デビュー時期が近く、特にデビュー当初は両者共通のファンも多かった、盟友GRAPEVINEのカバーなのですが、ギターのアルペジオをベースに、ゆっくりと聴かせるカバーは、GRAPEVINEの色にもピッタリとマッチ。GRAPEVINEの新曲といっても違和感ないカバーになっています。

スキマスイッチの「if」もBase Ball Bearの「Raspberry」も、原曲から大きな変化はなく、それぞれ原曲の良さをきちんと感じつつも、スキマスイッチ、Base Ball Bearらしさもきちんと発揮されたカバーになっていますし、特にカラッとしたギターサウンドで軽快に聴かせるLOVE PSYCHEDELICOの「New Lover」やピアノとアコギで幻想的に聴かせる山崎まさよしの「シラフの月」などは、完全にデリコ、山崎まさよしのフィールドにトライセラの曲を引きずり込んだ形のカバーに。ただ、原曲の良さはこれらのカバーでも失っていません。

CHABOの色が濃く出た、ブルージーな「New World」もユニークですし、このアルバムの中である意味、最もユニークで挑戦的だったのがKANの「トランスフォーマー」でしょう。全編打ち込みを取り入れたエレクトロポップに生まれ変わっている、KANちゃんらしいユニークなカバー。ただ、このエレクトロサウンドが「トランスフォーマー」に意外とマッチしており、楽曲の新たな魅力を引き出したカバーに仕上げています。

ミスチルの桜井和寿とトライセラがタッグを組んだQuattro Formaggiの「ラストバラード」も完全に桜井の曲になっています。そしてラストを締めくくるのは和田唱と小田和正の「Fever」。TBSの番組「クリスマスの約束2017」で披露された音源だそうですが、基本的に小田和正はコーラスに徹しているのですが、聴き終わった後は小田和正の印象も強く残ってしまう点も印象的。この2曲については、桜井和寿、小田和正のボーカリストとしての個性の強さを感じるカバーになっています。

そして、これだけ素晴らしいカバーが並んだもう1つの大きな要因は、間違いなく原曲が魅力的だから、ということでしょう。特に和田唱の書くメロディーラインがしっかりメロディアスでインパクトを持っているからこそ、多少乱暴なカバーをしたり、カバーするミュージシャンの個性を前に押し出したりしても、原曲の良さが失われないという点が、今回、数多くのミュージシャンが名カバーを披露した大きな要素になっているのではないでしょうか。

個人的にはTRICERATOPSというバンドは、日本でもっとも過小評価されているバンドのひとつだと思っているのですが、今回のカバーアルバムを聴いて、参加ミュージシャン個々の魅力はもちろんなのですが、それ以上にTRICERATOPSの実力、魅力を再認識したアルバムに仕上がっていたと思います。昨年末から活動を再開したトライセラ。次はついに、彼らのオリジナルアルバムのリリースとなるのでしょうか。早くトライセラの新譜も聴きたいです!

評価:★★★★★

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