音楽好きが「聴いておくべき曲」をカバー
Title:ベルカント号のSONGBOOKⅠ
Musician:ムジカ・ピッコリーノ
Title:ベルカント号のSONGBOOKⅡ
Musician:ムジカ・ピッコリーノ
特に子育て世代の方には、いまさら言うまでもない話かもしれませんが、「子供向け」ながらも大人もうならせるような非常に優れた番組が少なくないのがNHK教育。現在、毎週金曜日に放送させている子供向けの音楽教育番組「ムジカ・ピッコリーノ」も、「子供向け」の番組ながらも、大人から見てもあなどれない、優れた音楽番組となっています。今回紹介するアルバムは、2018年以降に放送された第6シリーズ、第7シリーズで取り上げられた楽曲を収録した作品となっているのですが、番組を見ていなくても、音楽が好きならアルバムだけでもチェックしてみて損のないカバーアルバムに仕上がっています。
番組の内容としては、音楽をなくした仮想空間の「ムジカ・ムンド」にさまよう「モンストロ」という怪獣を音楽の力で救出するというストーリー。「モンストロ」はそれぞれ、楽曲の記憶を有していて、ベルカント号のメンバーが、「モンストロ」が断片的に提示する楽曲の記憶をヒントに、その楽曲を演奏することにより「モンストロ」を救出するというストーリーとなっています。
まず、この楽曲を演奏するベルカント号のメンバー、ハッチェル楽団の構成員があなどれません。ボーカルは、あのOKAMOTO'Sのボーカル、オカモトショウ。ギターにはペトローズのメンバーで、東京事変にも「浮雲」の名前で参加している長岡亮介が参加。そのほか、藤原さくらなども参加しており、このメンバーによるカバーアルバム、というだけで聴く価値を感じる方も少なくないのではないでしょうか。
さらに素晴らしいのがカバーしている楽曲の数々。基本的に「音楽教育番組」ということなのですが、音楽が好きならば、まずはチェックしておくべきなスタンダードナンバーが数多く収録されています。それもジャンル的にはロックやポップスからスタートし、J-POPや演歌、アイドル歌謡曲にテクノポップ、ボサノヴァ、ラテン、クラシックに日本の民謡や、沖縄民謡まで網羅。それも「音楽の教科書」的な昔からの「唱歌」的な曲ではなく、音楽的な評価が高いポピュラーミュージックがずらりとならびます。
そもそも「SONGBOOKⅠ」の冒頭を飾る曲からして、くるりの「ばらの花」。さらにThe Whoの「My Generation」が続いたかと思えば、ガーシュウィンの「アイ・ガット・リズム」、山口百恵の「プレイバックPartⅡ」に、なんとオアシスの「ワンダーウォール」まで登場。その後もRIP SLYMEに水前寺清子にニュー・オーダーの「ブルーマンデー」まで登場。古今東西、ポピュラーミュージックとして聴いておくべきスタンダードナンバーが並びます。
「SONGBOOKⅡ」にしても、はっぴいえんどの「風をあつめて」からスタート。YMOの「TECHNOPOLIS」や嘉納昌吉の「ハイサイおじさん」、レッド・ツェッペリンの「イミグラント・ソング」ではおなじみのヘヴィーなギターリフとボーカルの咆哮もしっかりとカバーしていますし、さらにはボサノヴァの名曲、アントニオ・カルロス・ジョビン「Agua De Beber」やラテンのスタンダードナンバー、Gipsy Kingsの「ボラーレ」まで網羅しています。
さらにはポピュラーミュージックの枠組みを飛び越えて、クロード・ドビュッシーの「アラベスク第1番」やベートーベンの「交響曲第9番」もしっかりとカバー。サティの「ジムノペディ第1番」では、日常会話に重ねることにより「家具の音楽」というサティのコンセプトをしっかりと体現化しています。あえて言えば、ソウルやブルース、海外のHIP HOPといったジャンルの選曲がないのが残念なのですが、それを差し引いても、まさに音楽が好きなら、このアルバムを参考に原曲をめぐってみるもの楽しいのでは?と思わせるような選曲になっています。
カバーとしては、あくまでも子供向けの音楽教育番組という立て付けのため、原曲に沿った卒のないカバーに仕上げており、この「卒がない」という点でも、参加メンバーの実力を感じさせます。ボーカルのオカモトショウも、OKAMOTO'Sで聴く時には、ボーカルの線の細さが気になっていたのですが、本作では、癖のないボーカルスタイルに徹しており、くるりの「ばらの花」とか、オアシスの「ワンダーウォール」とか、意外と原曲にもマッチした歌を聴かせてくれており、ボーカリストとしての実力を再認識しました。
変にわけわからない合唱課題曲を歌わされるよりも、このアルバムを小学校の音楽の教科書として用いた方が、よっぽど音楽の楽しさ、おもしろさを体現できるのでは?そう感じさせるカバーアルバム。音楽好きにとっても、音楽好きとして「聴くべき曲」を網羅的に楽しめるという意味でも非常に優れた選曲の作品だったと思います。いや、あらためてEテレ、あなどれません。聴いていておもわずその内容にうならされてしまったアルバムでした。
評価:どちらも★★★★★
ほかに聴いたアルバム
くのいち/775
こちらも2020年ベストアルバムを後追いで聴いた1枚。MUSIC MAGAZINE誌レゲエ部門で1位を獲得したアルバム。大阪・岸和田出身のレゲエシンガー。全5曲入りのミニアルバムなのですが、最後の「友達のうた」など典型的なのですが、仲間や地元について歌った曲がメイン。良くも悪くも下町のヤンキー的な価値観の作風になっています。サウンドはシンプルな横ノリのリズムでポップで聴きやすいスタイル。ただ、そんな中で「Bon buri」は、大麻を思いっきり肯定し礼賛する1曲になっており、賛否はともかく、今の日本でよく商業ベースで(インディーズですが)リリースできたなぁ・・・と感心する作品になっています。この1曲だけでかなりインパクトのある作品になっていました。
評価:★★★★
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