一気に駆け抜けるビート
Title:Example
Musician:Sulaimon Alao Adekunle Malaika
今回紹介するのも2020年の各種メディアでのベストアルバムを後追いで聴いた1枚。今回はMUSIC MAGAZINE誌の年間ベストアルバム、ワールドミュージック部門で2位にランクインしたSulaimon Alao Adekunle Malaikaによるアルバム。KS1 Malaikaという名前でも知られるナイジェリアのフジという音楽を奏でるミュージシャンだそうです。
この「フジ」という日本人にもなじみのある名称が付された音楽は、ナイジェリアで人気のダンスミュージックのジャンルで、もともとはラマダンの断食シーズンにおいて、夜明け前に人々を起こすために演奏された音楽のジャンル、アジサーリから生まれた音楽だそうです。この「フジ」という名前は、紛うことなく日本の「富士山」に由来しているとか。もっとも、音楽的に日本の音楽が影響を受けている、という訳ではなく、シキル・アインデ・バリスターというナイジェリアで人気のミュージシャンが、「空港で日本一高い富士山を宣伝するポスターを見て思いついた」そうで、決して日本の音楽に由来するものではないものの、日本の「富士山」から名前を拝借しているあたり、日本人にとってはちょっとうれしく感じてしまうかもしれません。
さて、そんな今回のアルバムですが、作品としては「O Se Oju Je je」という曲と「Awa Eda Ti Oba Olorun Da」という20分を超える曲が2曲並ぶだけのアルバムになっています。基本的に、その2曲とも、陽気なダンスチューンというスタイルであり、どちらもフジの楽曲であり、スタイル的には大きく変わるものではありません。
スタートして最初に耳に飛び込んでくるのは、非常にチープな打ち込みのサウンド。ある意味、「粗削り」ともいえるサウンドはいかにもアフリカ的なのですが、このサウンドが妙に印象に残ります。そして、そのあとに一気に飛び込んでくるのが、パーカッションの疾走感あふれるビート。そこにコールアンドレスポンスを基調としたボーカルがのり、リスナーを一気に狂乱の渦に巻き込むような、そんなサウンドが展開されます。
この疾走感あふれるパーカッションのグルーヴが延々と20分以上続いていくわけですから、踊りながら聴いたら間違いなくトリップできそう。これが「夜明けにみんなを起こすための音楽」だとしたら、いきなり朝一からとんでもないほとハイテンションとなるわけで、アフリカ人のアグレッシブさに驚かされます。
そんなトリップ感あふれるビートが続いていく中、非常に気持ちよいのが途中で妙にあか抜けたホーンセッションやギターの音色が入ったり、妙にあか抜けたメロディアスなフレーズが飛び込んでくる点。ただただハイテンションで続いていくビートの中でのちょうどよい清涼感となって、アルバムの中でのちょうどよい「抜け」の要素となっています。ある意味、トライバルなビートやコールアンドレスポンスと、妙にあか抜けたメロディやホーンセッションの音色のバランスが絶妙で、最後まで全くだれることなく楽しめる大きな要因になっているように感じます。
そんな訳で、アルバムの中で大きな変化があるわけではないものの、全40分強の内容を一気に楽しむことが出来るアルバム。これ、ライブで聴いたら本当にトリップできて気持ちいいだろうなぁ・・・と感じてしまいます。ベストアルバムとして高い評価を受けるのも納得の1枚。ジャンルが「フジ」なだけにフジロックや富士山の麓で聴きたい??
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
No Fun Mondays/Billie Joe Armstrong
以前、Norah Jonesとの共作という形でのリリースはあったものの、純粋なソロとしては本作がデビュー作となります、ご存じGREEN DAYのボーカリストによるソロ作。とはいえ、本作もソロのオリジナルではなく、彼が過去に影響を受けた楽曲をカバーしたカバーアルバム。このコロナ禍でライブツアーが中止となり自宅待機を余儀なくされた影響で作成されたアルバムのようです。GREEN DAYのファンなら大喜びしそうなポップな曲調の楽曲ばかりで、そんな曲をいずれもメロディアスパンクなアレンジで仕上げている、非常にご機嫌なアルバム。彼の音楽的な原点がよくわかる、陽気なカバーアルバムとなっています。コロナ禍の副産物的な作品と言えるのですが、次はこれをライブ会場で聴ける日を願いたいです。
評価:★★★★★
on the tender spot of every calloused moment/Ambrose Akinmusire
本作も、2020年ベストアルバムとして選定されたアルバムのうち聴き逃していた作品を後追いで聴いた作品。本作はMusic Magazine誌ジャズ部門で1位を獲得したアルバム。現代ジャズ界で注目を集めるトランぺッターによる作品で、本作は2021年グラミー賞の最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム部門にノミネートされているそうです。フリーキーなサウンドも垣間見せるものの、基本的にはメロウでしんみり聴かせる、思ったよりもオーソドックスな「ジャジー」と表現されるようなサウンド。いい意味で聴きやすさを感じるアルバムでした。
評価:★★★★
Billie Joe Armstrong 過去の作品
Foreverly(BILLIE JOE+NORAH)
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