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2021年2月13日 (土)

2020年という年をあらわした連作

Title:Untitled(Black is)
Musician:SAULT

2020年は新型コロナウイルスの蔓延が世界中を覆いつくし、非常に「暗い」1年となってしまいました。しかし、昨年大きな話題となったニュースはコロナ禍だけではありません。それと並ぶように大きな話題になったのが白人警官による黒人への暴力に端を発するBlack Lives Matter運動でした。主にアメリカで大きな流れとなったのですが、一方、日本でも大きな話題となりました。

今回紹介するのは、そんなBlack Lives Matterに呼応する形でリリースされたアルバム。ミュージシャンであるSAULTは、2019年に「5」「7」という匿名性の強いアルバムがリリースされ、ロンドンで一気に話題となったバンド、SAULT。正体不明の謎のバンドとして話題となり、ミュージシャンの名前からして「ソー」もしくは「ソールト」という異なる呼ばれ方をしているそうです。

今回のアルバムを聴いたきっかけは、こちらのサイトで2020年各種メディアのベストアルバムとして上位にランクインしてきていることを知ったから。リアルタイムでは聴き逃してしまったため、後追いでチェックしてみたアルバムなのですが・・・まずBlack Lives Matterに呼応するアルバムというメッセージ性関係なく、非常にカッコいいアルバムに仕上がっていました。

アルバムとしては、ソウルやファンクをベースに、ダブ、ロックやゴスペル、HIP HOPやアフリカ音楽の要素まで取り入れた、非常に黒い、グルーヴィーなサウンドを聴かせてくれています。特に「Don't Shoot Guns Down」ではトライバルなリズムを取り入れてきたり、「Bow」ではコールアンドレスポンスにトライバルなサウンドと、アフリカ的な楽曲を展開しています。

また一方では「Black」のような、トラップ的なリズムを取り入れたループするサウンドで、HIP HOP的な曲もあったりと、今風なサウンドも感じられまず。かと思えば一方では「Wildfires」「Sorry Ain't Enough」のように、レトロでムーディーなソウルチューンがあったり、さらにラストの「Pray up Stay up」も60年代のソウルを彷彿とさせるような魅力的なポップチューンだったりと、アルバム全体としてはどちらかというとレトロな要素が強く、どこかエロチックさも感じるサウンドが強い魅力に感じました。

ただ、おそらく何よりもこのアルバムで主張したいのは、Black Lives Matterに対応するメッセージでしょう。ジャケット写真からしてつきあげられた拳という印象的なものですが、アルバムの1曲目「Out the Lies」から、まず「Black is safety...」という語りからスタートするあたり、かなりストレートなメッセージ性を感じさせます。さらに「Don't Shoot Guns Down」では"Don't shoot,guns down.Racist policeman"というワードがストレートに綴られていますし、途中の「Us」でも"I beleieve the magic of blackness"というメッセージからスタートしていたりと、非常に伝わりやすい、わかりやすいメッセージ性が魅力的。この手のメッセージアルバムは、非英語圏の私たちには伝わりにくい部分があるのですが、本作は、あえてアフリカ色を出したサウンドと合わせて、私たちにもしっかりとメッセージが伝わってくるアルバムになっていました。

そして、そんな彼らが2020年にもう1枚リリースしたアルバムがこちら。

Title:Untitled(Rise)
Musician:SAULT

本作も、80年代的な明るさを感じさせる「Strong」や60年代のR&B的な「Fearless」など、やはりレトロな雰囲気が魅力的。今回もソウルやファンク、ジャズなどの要素を強く感じさせるアルバムになっています。ただ、同じ「Untilted」ですが、「Black is...」とその方向性は大きく異なります。メッセージ性が強く、そのメッセージゆえに影の要素を感じさせる「Black is...」と比べると、本作は、明らかに「陽」の要素を強く感じさせるアルバムになっています。3曲目に配置された「Rise」では、やはり語りが入るのですが、そのメッセージがいきなり"Good morning"からスタートするあたりも、明らかに明るさを感じさせるアルバムになっています。

その後も、彼ら流のディスコチューンともいえる「I Just Want to Dance」や、レトロなソウルチューンながらも清涼感あるボーカルが心地よい「Son Shine」、こちらもトライバルでアフリカ的ながらも、非常に明るさを感じさる「The Beginning&The End」など、全体的にちょっと懐かしさを感じさせつつ、明るい楽曲が並びます。

ただ、単純な明るさだけではなく、後半「No Black Violins in London」など微妙に不穏な空気を感じさせる語りが入っていますし、続く「Scary Times」"Hearing gunshots in the streets every nights"と、不穏な現状がそこには綴られています。間違いなく「Black is...」と呼応する形で作られた本作は、ある意味、「Black is...」の向こう側にある明るさを歌いつつ、一方ではその不穏さから、差別問題が単純に解決されるものではないという事実も物語っているように感じました。

とはいえ、ラストの「Little Boy」は女性ボーカルによる明るいポップチューンに仕上がっており、爽快な印象でアルバムは幕を下ろします。「Black is...」と「Rise」が対になっているアルバムということを考えると、非常に暗い雰囲気からアルバムがスタートし、「Rise」で祝祭色が強くなるものの、最後ではやはり不穏な現実を垣間見せ、しかしラストは明るい希望を感じさせつつアルバムは終わる…非常に印象的な構成になっていたように感じます。

メッセージ的にもサウンド的にも非常に優れたアルバムで、これは確かに各種媒体で絶賛を集めるのは納得の傑作アルバム。2020年を間違いなく代表する作品だったと思います。2020年がどういう年だったか、という時に、まずは紹介されそうな作品とも言えるでしょう。今回、彼らについては実ははじめて知ったのですが、そのサウンドにもメッセージにも一気に惹きつけられました。

評価:どちらも★★★★★


ほかに聴いたアルバム

Weird!/YUNGBLUD

イギリスの新人ミュージシャンの登竜門とも言える「BBC Sound of 2020」の3位にランクインし注目を集めたシンガーソングライター、ドミニク・リチャード・ハリソンことYUNGBLUDの2枚目となるアルバム。ボーカリストとしては端正な声の持ち主で、比較的聴きやすいポップソングというイメージが強く、楽曲的にもハードロックやミスクチャー風の曲から、軽快なギターロックやよりポップテイストの強い曲までバリエーション豊か…というよりも、良くも悪くも「器用」というイメージを抱きます。まだ日本での知名度はさほど高くありませんが、日本でも、もっと広い層に人気が出そうな予感のあるミュージシャンです。

評価:★★★★

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