実験的だがポップでユーモアも
Title:Figures
Musician:Aksak Maboul
今日紹介するのも、2020年ベストアルバムを後追いした1枚。今回はMusic Magazine誌ロック(ヨーロッパほか)部門で1位を獲得した作品。「アクサク・マブール」と読むこのバンドは、1977年にマーク・オランデルとヴィンセント・ケニスによって結成されたベルギーのプログレッシブ・ロック・バンド。1977年と80年に2枚のアルバムをリリースしたものの、その後、活動を休止。2010年には再結成を果たし、ヴェロニク・ヴィンセント&アクサク・マブール名義で2枚のアルバムをリリース。そして「アクサク・マブール」名義では、実に1980年のアルバムから約40年ぶりとなるニューアルバムが本作となります。
今回、「ロック(ヨーロッパほか)部門」で1位を獲得したのが本作を聴くきっかけなのですが、アクサス・マブールというバンドは、実は音源を聴くのはもちろん、その名前を聞くのも今回がはじめて。前提となる彼らへの知識が全くない状況で今回のアルバムを聴いてみたのですが、2枚組約1時間15分、様々な「音」を取り込んだバラエティー富んだ内容に、一気に魅了された作品になっていました。
まずイントロ的な1曲目に続いてスタートする「C'est Charles」は打ち込みがメインとなるリズミカルなナンバー。なのですが、そのリズムは細かいハイハットの連続音は、まさに最近はやりのトラップからの影響を感じさせるナンバー。結成が1977年という超ベテランバンドにも関わらず、どこか今どきを感じさせるサウンドにまずは驚かされます。
かと思えば「Histoires de fous」はエレクトロピアノのナンバーがメランコリックで、若干レトロ的な雰囲気を感じさせる楽曲に。フランス語のボーカルも、哀愁感にピッタリとマッチ。そんな楽曲があるかと思えば「Formerly Known As Defile」はピアノやベル、打ち込みのリズムなどが軽快で楽しいおもちゃ箱のようなポップな楽曲。そのようにバラエティー豊かにアルバムは進行していきます。
Disc2になってもエレクトロな打ち込みでテンポよくリズムを聴かせつつ、その中に男女の会話を組み込んでどこかユーモラスな「Dramuscule」、インターリュード的な曲ながらもメタリックなサウンドが不気味な雰囲気を醸し出す「Excerpt from Uccellini」、ピアノやギターをアバンギャルドに聴かせる「Un certain M.」などなど、様々な作風の曲が展開されていきます。
特にDisc2は1分程度の作品に様々なアイディアを詰め込んだ「実験」的な曲も多く、そういう意味でもいかにもプログレ・バンド然とした要素も感じさせます。ただ、全体的には実験的な作品にもどこかポップやユーモラスな要素を詰め込んでおり、アルバム全体としては決して難解といったイメージはありません。むしろDisc2でも「Fatrasie pulverisee」は男女デゥオのフレンチポップとなっておりメロディアスで聴きやすさすら感じさせますし、ラストを飾る「Tout a une fin」も8分にも及ぶ曲になっており、サウンドには挑戦的な要素も感じさせるのですが、ポップでメロディアスな歌がしっかりと流れており、むしろ非常にポピュラリティーのある聴きやすさを感じさせます。
実験的な作風ながらもポップでユーモラスなサウンドを最後まで楽しむことが出来る傑作アルバム。大ベテランバンドで40年ぶりの新作ということですが、古さは全く感じる。逆に今風のサウンドすら感じさせる点も驚きすら感じます。今回彼らの音源はもちろん、名前もはじめて聞いたのですが、まだまだ私の知らない素晴らしいバンドはたくさんいるということですね。昔のアルバムもさかのぼって聴きたくなった、そんな傑作でした。
評価:★★★★★
ほかに聴いたアルバム
Siti of Unguja(Romance Revolution on Zanzibar)/Siti Muharam
アフリカ東海岸のインド洋上のある諸島、ザンジバル。そのザンジバルの女性シンガー、Siti Muharamのデビューアルバム。本作も2020年ベストアルバムを後追いで聴いた1枚で、本作がMusic Magazine誌ワールドミュージック部門で1位に輝いた作品。位置づけ的には「アフリカの音楽」となるのですが、シタールが鳴り響き、こぶしを効かせたボーカルを聴かせるスタイルは、むしろインド音楽の影響を強く受けた作品。ただ一方ではアラブ系の音楽やアフリカ系の音楽の要素も混じっており、独特の音楽性を聴かせてくれます。どこか妖艶な雰囲気も魅力的。アフリカの音楽の幅広さを感じさせる1枚でした。
評価:★★★★
Bom Mesmo E Estar Debaixo D'Agua/Luedji Luna
本作も2020年ベストアルバムを後追いで聴いた1枚。本作は、Music Magazine誌ブラジルミュージック部門で1位を獲得した作品。サンパウロを拠点に活動しているアフリカ系の女性シンガーによる作品で、ムーディーでジャジーな作風ながらも、一方ではアフリカ音楽からの流れを感じさせるトライバルなサウンドや、ラテン的な要素も感じさせる音楽で、まさにワールドワイドな音楽性を楽しめる作品になっています。ブラジル音楽といっても、その奥にある音楽性の深さを感じさせる傑作でした。
評価:★★★★★
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