より彼らしい歌詞が魅力的
Title:Nonocular violet
Musician:山中さわお
現在、事実上の活動休止状態となっているロックバンドthe pillows。しかし、the pillowsのボーカリストであり、メインライターである山中さわおは、むしろthe pillows活動休止中の今、かなり積極的な活動が目立っています。5月にはソロアルバム「ELPIS」をリリース。さらに8月にはミニアルバム「ロックンロールはいらない」をリリースし、さらに11月には本作をリリース。もともと、今年はソロ活動が中心となることが予定されており、さらにコロナ禍の中でライブ活動もままならない状況だから新曲をたくさん書いていた、というのが大きな理由のようです。
「ELPIS」「ロックンロールはいらない」が通販限定でのリリースとなったため、ある意味、もっともプロモーションされ、もっとも目立った形でのリリースとなったのが本作。実は私自身、前2作が通販限定ということもあったため未チェックとなっており、ソロ作としては久しぶりに聴く形でのアルバムとなりました。
山中さわおのソロアルバムと言えば、最初の2作「退屈な男」「DISCHARGE」は楽曲的にもthe pillowsとは一線を画するような楽曲が並ぶ、ある意味、ソロ作らしいアルバムになっていました。一方で3作目の「破壊的イノヴェーション」はthe pillowsが活動休止中にリリースされたアルバムということもあってか、比較的、the pillowsと同じベクトルを向いたアルバムになっていました。
そして今回のニューアルバム、the pillowsが事実上の活動休止中だから、ということもあるのでしょうか、いままでのアルバムの中でもっともthe pillowsのサウンドに近いアルバムという印象を受けました。基本的にthe pillowsと同様の、テンポ良いオルタナ系ギターロックを奏でるバンドサウンド色の強い作品がメイン。1曲目のタイトルチューン「Nonocular violet」の楽曲の入り方なんかは、もろthe pillowsといった感じですし、「Old fogy」の出だしのギターリフなんかも、the pillowsらしい…というよりも山中さわお節といった方がいいんでしょうね。
オルタナ系のギターロックメインの中に「オルタナティブ・ロマンチスト」のようなリズミカルなロックンロールチューンが入っていたり、「V.I.P.」のような、よりヘヴィーなサウンドを聴かせる曲が入っていたり、さらにラストの「Vegetable」のような英語詞の楽曲が入っていたりする構成も、the pillowsのアルバムと同じような楽曲構成になっています。
いままで、the pillowsの曲と比べると、山中さわおの曲はインパクトを抑えめに仕上げていたような印象を受けましたが、今回のアルバムで言えば「サナトリウムの長い午後」のような、the pillowsのシングル曲としてリリースしても違和感のないようなフックの効いた曲も収録されており、そういう意味でもソロアルバムとしての力の入りようも感じます。
それだけに、これ、the pillowsとしてリリースしてもよかったのでは?なんて思ったり思わなかったりするのですが、一方で、孤独の中での人との絆を歌うような、山中さわおの色を、the pillowsの曲よりも強く感じます。
「笑われたってかまわないぜ
キミとの再会も叶うだろう」
(「Nonocular violet」より 作詞 山中さわお)
「はみだし者が二人で
はしゃいでた
自由だったな」
(「POP UP RUNAWAYS」より 作詞 山中さわお)
みたいな歌詞は、実に彼らしいと言えるでしょう。そして一方、その向こうにある希望を力強く歌っているのも特徴的で、
「輝く未来はきっと 目には見えない花を
育て続ける僕らに手招きしてるって
絵本のような夢はいつ覚める」
(「Nonocular violet」より 作詞 山中さわお)
「行こうぜ 心を奪い返しに行こう
秘策も武器もない それでいい
失うモノもない」
(「サナトリウムの長い午後」より 作詞 山中さわお)
なんて、どこか寂しげな要素を帯びつつも、希望を歌う歌詞に彼らしさも強く感じます。
そんな訳で、the pillowsが活動していない穴を埋めるかのような、山中さわおらしい作品が収録されたアルバムで、the pillowsファンも間違いなく気に入りそうなアルバムに仕上がっていました。個人的にも、いままでの彼のソロ作の中で一番のお気に入り。昨年リリースした残りの2作、未チェックだったのですが、やはり聴いてみようかなぁ・・・。でも、2021年は、the pillowsの活動再開も期待したいのですが。
評価:★★★★★
山中さわお 過去の作品
DISCHARGE
退屈な男
破壊的イノヴェーション
ほかに聴いたアルバム
Face to Face/雨のパレード
昨年1月にアルバム「BORDERLESS」をリリースしたばかりの雨のパレードですが、なんと12月にもう1枚アルバムをリリース。どうも山中さわおのソロと同様に、コロナ禍の影響でライブツアーがなくなったため、曲を書き始めた影響のようです。ファンとしてはうれしい話で、コロナ禍の副産物と言えるのかもしれません。楽曲的には、いつもの彼らと同様、AOR、シティポップ的な要素を中心に、エレクトロ、ファンク、ロックなどの要素を取り入れた楽曲。全体的にはメロウでスタイリッシュな、気だるい雰囲気の曲が多く、ウェットさはいままで以上。いままで、音楽的な偏差値の高さと反してインパクトの弱さが気になっていたのですが、いままでのアルバムの中では一番印象に残ったかもしれません。もうちょっとコアになる曲があればおもしろくなると思うのですが。
評価:★★★★
雨のパレード 過去の作品
Change your pops
Reason of Black Color
BORDERLESS
新小岩/ZORN
正直、BillboardのHot Albumsでこのアルバムがいきなり1位を獲得したのには驚きました。以前は般若主宰の昭和レコードに所属していたものの2019年に脱退。本作は脱退後初となる9枚目のオリジナルアルバム。「新小岩」という地名をタイトルにした通り、彼の出身地である新小岩での生活をつづったようなラップが特徴的。今どきなトラップの要素をふんだんにいれつつ、地元での仲間たちとの生活をラップしています。貧乏なアンダーグラウンド的な生活の実態を描く、といった社会派的な要素はないため、いわゆる「下町のヤンキー」然とした生活スタイルには全く共感できないのですが、ダウナーでメランコリックな雰囲気を漂わせたラップは確かに魅力的。まだまだこれからも注目を集めそうなラッパーです。
評価:★★★★
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