海外で活躍する日本人SSWの話題作
Title:Sawayama
Musician:Rina Sawayama
「海外で活躍する日本人」というネタは、日本人にとっては大好きなネタで、特にメディアではよくこの手のネタは取り上げられたりします。ただ、得てして日本の芸能界に対する「忖度」が働くことが多々あり、日本の著名な芸能人が、ちょっと海外で取り上げられたりすると「世界の〇〇」と過剰にもてはやしたりする一方、日本では無名な芸能人が海外で活躍しても、なぜか日本国内ではほとんど取り上げられない、というケースが少なくないように思います。
今回紹介するRina Sawayamaもそんな海外で活躍するものの、日本ではあまり取り上げられていない「芸能人」の一人。もともと新潟出身で、父親の転勤をきっかけで4歳の時にロンドンに移住。日本出身イギリス育ちという出自を持つ彼女ですが、現在はイギリスを拠点に、シンガーソングライターとして活躍しています。残念ながら、まだ売上的にはブレイクという状況ではないのですが、音楽的な評価は非常に高く、NMEの2020年ベストアルバムで7位、ガーディアン誌のベストアルバムでは3位など、数多くの海外メディアの2020年のベストアルバムの上位に軒並みランクインするなど、間違いなく「2020年を代表するアルバム」の1枚となっています。
ただ、残念ながら日本では本作についてあまり大きく取り上げられることはありません。一応、「ロッキンオン」の年間ベストで18位にランクインしているものの、このアルバム自体、さほど大きく取り上げられた印象はありません。私も2020年のベストアルバムとしてメディアに取り上げられたアルバムのうち、聴き逃していたアルバムの1枚として遅ればせながら聴いてみただけに、人のことは言えないのかもしれませんが・・・。
そんな本作ですが、音楽的にはR&Bの影響を強く受けた軽快なポップス。本人は自分の音楽についてマライア・キャリーやジャスティン・ティンバーレイクの名前をあげたりするのですが、確かに基本的には「今どきのR&Bポップ」という印象を受けるアルバムとなっています。ただその一方、J-POPからの影響を非常に強く感じる作品にもなっています。実際、彼女自身はイギリス育ちとはいえ、もともとは日本人学校に通っていたそうで、数多くのJ-POPに触れてきたそうです。特に宇多田ヒカルの「First Love」や椎名林檎の「勝訴ストリップ」は最も大きな影響を受けたアルバムとして名前をあげるなど、間違いなく彼女の楽曲には邦楽の「血」が流れています。
特に顕著なのが「Paradisin'」で、わかりやくかつキャッチーなインパクトのあるサビを持つ楽曲構造は、あまり洋楽では見られないパターンで、典型的なJ-POP的な楽曲構成。日本人にとっても、非常になじみやすい曲調になっています。さらに顕著なのは、最後の「Tokyo Takeover」。途中、日本語詞のフレーズが登場するのですが、ここがもろ椎名林檎。「新宿のゴールデン街」なんていう、ちょっと椎名林檎すぎて露骨な固有名詞まで登場しており、椎名林檎からの影響がわかりやすく体現化された曲になっています。
さらに「STFU!」のようなメタリックなサウンドだったり、「Comme des Garcons(Like The Boys)」のようなエレクトロチューンが入ったり、「Who's Gonna Save U Now?」のようなニューウェーヴ風な曲が入ったりと、いい意味でこだわりのない、雑食的な音楽性もJ-POP的と言えるかもしれません。
また影響を公言するミュージシャンとして、洋楽勢でもマライア・キャリーやカーディガンズなど、日本人好みのミュージシャンをあげているあたりも特徴的で、キャッチーでわかりやすいメロディーラインといい、「日本人好みの洋楽」というイメージを強く持ちます。彼女の音楽は日本人的には非常になじみのある曲調とも言えるのですが、ひょっとしたら海外では、J-POP的な部分も含めて、彼女みたいなタイプの楽曲が、逆に新鮮に感じられているのかもしれません。
ちなみに彼女自身、「日本的」な部分を押し出しており、前述の「Tokyo Takeover」の中の日本語詞もそうですし、「Akasaka Sad」「Tokyo Love Hotel」なんて曲もありますし、「XS」の冒頭では、日本民謡的なこぶしが入ってきていますし、ここらへんの日本的な要素も、海外ではエキゾチックなものとして受けているのかもしれません。
アルバムとしては日本人受けしそうな内容ですし、日本でも間違いなく人気が出そうな1枚。彼女自身、以前日本でも「情熱大陸」で取り上げられたこともあるだけに、「完全無視」という状況ではないものの、海外での高い評価と反比例して、やはりあまり取り上げられることが少ない現状。ただ、これで「グラミー賞」とか受賞してしまったら、手のひらを返したように「海外で活躍する日本人」としてチヤホヤされるんだろうなぁ。ま、そんなうがった考えも思い浮かんでしまうのですが、本作が傑作なのは間違いありません。今のうちに、日本でも大ヒットするといいんですが・・・。
評価:★★★★★
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