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2021年2月 7日 (日)

圧巻のサウンドが幻想を切り裂く

Title:狂(KLUE)
Musician:GEZAN

年が明け、様々な媒体で「2020年ベストアルバム」が発表される中、毎年、各種メディアでベストアルバムに選定されたアルバムの中で、まだ聴いていなかったアルバムを後追いでチェックしているのですが、今回紹介するアルバムはそんなアルバムの1枚。MUSIC MAGAZINE誌の「ロック[日本]部門」で1位に選定されたアルバム。インディーロックバンド、GEZANの5枚目となるニューアルバムです。

楽曲的にはサイケデリックなサウンドでグルーヴィーなバンドサウンドを聴かせるスタイルのバンド。基本的にはボーカルが入るスタイルなのですが、歌というよりもあくまでも「サウンド」を聴かせるスタイルとなっています。アンダーグラウンド的な匂いをプンプンと立ち込めさせる音が特徴的で、もともと大阪出身で、その後、葛生拠点を東京に移したそうですが、昔、「関西ゼロ世代」と言われた大阪のアンダーグラウンド的なバンド、あふりらんぽやオシリペンペンズあたりに連なるような印象を受けるバンドと言えるかもしれません。

その1曲目、タイトルチューンとも言える「狂」では不気味でダヴィーなサウンドの中で、淡々とした「語り」が展開されるのですが、「簡潔に言えば、この不協和音は毒として血をめぐり骨を溶かし、借り物の原理を破壊する/シティポップが象徴してたポカポカした幻想にいまだに酔ってたい君にはお勧めできねぇ/今ならまだ間に合う/停止ボタンを押し、この声を拒絶せよ」とかなり挑発的な語りからスタートします。

そんな挑発からスタートするこの作品は、まさにその「シティポップ」的な爽快さからは対局にあるような、非常に不気味かつヘヴィーなサウンドが展開していきます。今回の作品ではエンジニアにダブ・エンジニアとして知ら得る内田直之を起用。2曲目「EXTACY」なども、まさにサイケでダヴィーなサウンドが渦巻くサウンドが耳に襲い掛かってきます。その後も「訓告」なども分厚いサイケデリックでダヴィーなサウンドが特徴的になっています。

そのほかの作品にしても、圧巻的なサウンドが耳をつんざく曲が並んでおり、サイケ、ダブ、ハードロック、パンクなどといった要素を自在に取り入れる音楽性も魅力的。疾走感あるバンドサウンドでパンキッシュな「AGEHA」、力強いドラムスをベースとする分厚いサウンドの中で、アジテーショナルな叫びを繰り広げる「赤曜日」、ギターノイズの中にトライバルなリズムが強烈に切り裂く「Free Refugees」など、1曲1曲が聴いていてズシリと響いてくる曲ばかりで、確かに爽快なシティポップの幻想に酔いしれるリスナーには強烈すぎる毒を展開しています。

そんな曲の中に挟まれる「歌モノ」の楽曲も妙なインパクトを醸し出しています。正直なところマヒトゥ・ザ・ピーポーのボーカルはハイトーンで、サウンドに比べると声量が弱く、楽曲の中では弱点になっている部分も否定できません。ただ、そこで歌われる歌詞の内容は、現在の社会を厳しく描写しており、そこもまた大きなインパクトに。特に「東京」では

新しい差別が
人を殺した朝

国に帰れと叫ぶ 悲しい響きが起こしたシュプレヒコール
肌の色違い探し血まなこの似たもの同士のface
(「東京」より 作詞 マヒトゥ・ザ・ピーポー)

今の東京の、という以上に日本の悲しい現実を容赦ないまでにストレートに描写していっています。

サウンドは、サイケデリックなサウンドといい、どちらかというと少々「懐かしさ」を感じさせるようなサウンドで、今どきの音とは少々かけ離れたサウンドかもしれません。ただ、歌詞の世界といい、間違いなく現在の日本を鋭く切り裂いていますし、そのサウンドの凶暴さは、2020年の今でも間違いなく健在。聴けば聴くほどその強烈なサウンドに圧巻され、魅了される傑作アルバムだったと思います。間違いなく2020年の年間ベストクラスのアルバム。彼らのアルバムを聴くのは、本作がはじめてなのですが、終始圧巻させられたアルバムでした。

評価:★★★★★

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