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2021年2月28日 (日)

「一発屋」の匂いも漂うが・・・

Title:すっからかん
Musician:瑛人

昨年、突如大ヒットを記録した男性シンガーソングライター、瑛人の「香水」。もともとリリースされたのは2019年4月だったのですが、TikTokなどで徐々に話題となり、昨年一気にブレイク。「ドルチェ&ガッバーナ」という具体的な固有名称が登場してくる点でも話題となりました。さらにこの曲は、メジャーどころかインディーレーベルからのリリースでもなく、完全な「自主制作」による楽曲で、それが最終的には紅白出場まで決める大ヒットまでつながったという点でも話題となりました。

ただ一方で、正直言ってしまうと「香水」でのヒットのインパクトが強すぎて、「一発屋」の雰囲気が漂っているのも否定できません。「香水」以降も配信オンリーで5枚のシングルをリリースしているものの、どの曲もヒットチャートの上位には入ってきていませんし、このアルバムも発売日の都合もあったものの、ビルボードで最高位9位、オリコンでは11位止まりと、「香水」のヒットと比べると、かなり厳しい結果となってしまっています。

私も正直言うと、「香水」のイメージが強すぎたので、アルバム単位ではあまり期待してしませんでした。ただ、アルバムを聴いてみた結果としては「思ったよりはよかった」というのが正直な感想です。まず楽曲的には、「香水」のイメージから大きく変わるものはありません。基本的にアコースティックギターでしんみり聴かせるミディアムチューンのナンバーがメイン。固有名詞も飛び出すような具体的な描写が印象的だった「香水」と同様、具体的な舞台や物語が用意されているような歌詞の世界の曲が並びます。

ほかにも隣の部屋の女の子に片思いしている「僕はバカ」や、既に結婚してしまった昔の恋人を思い出している「カルマ」なども、「香水」と同様、かなり具体的な恋愛心理の描写があり、聴いていて胸がズキッと痛くなるような歌詞が印象的。歌詞の内容もリアリティーある描写となっていて、ちょっと女々しい歌詞の内容も含めて、個人的には結構嫌いではありません。

また、ある意味一番驚いたのが「ハッピーになれよ」で、この曲、酒癖の悪いDV気質の父親の下でも家族について歌った、「香水」のイメージからするとかなりヘヴィーなナンバー。実体験だとしたら、かなりヘヴィーな内容で、聴いていて、失恋の歌とは別の意味で切なくなってくるようなナンバー。「香水」のようなラブソングのシンガーだとイメージすると、かなり意外性を感じる方も少なくないのではないでしょうか。

ただ、ここらへんの歌詞は意外と魅力的だったのですが、それでもアルバム全体を聴いた印象としては「これは一発屋になりそうだ・・・」と思ってしまったのが正直な感想でした。その理由としてはいくつかありますが、まず、メロディーの面でもサウンドの面でもインパクトが弱い点。それなりにわかりやすいフレーズを聴かせてくれるのですが、似たようなタイプの曲が多く、全体としては印象は薄めになってしまいます。また、歌詞にしてもメロディーラインにしてもサウンドにしても、「愚直」といった印象を受けるような、無難な作風に仕上げており(前述の「ハッピーになれよ」のような例外はありますが)、インパクトの弱さの大きな要因に感じます。

そして、それらの事項を含めて、結果として「一発屋」感が強い最大の理由としては、瑛人としての個性がほとんど感じられない点でしょう。はっきり言うと、ここで収録されている曲は、彼でしか歌えない、といった曲はありませんし、彼にしかもっていない特色をあげろ、と言われると、言葉につまってしまいます。ここに収録されている曲を聴いて感じる満足度は、同じ男性シンガーソングライターとして、例えば斉藤和義だとか、秦基博だとかを聴けば事足りてしまう、といって間違いではありません。斉藤和義とか、秦基博じゃだめなんだ、瑛人じゃなくては!といった感触は、残念ながらこのアルバムからは感じられませんでした。

「香水」があれだけヒットを出しただけに、今後についてそう簡単に困ることはないのかもしれませんが、率直に、次のヒットは厳しいだろうなぁ、と感じてしまうアルバムでした。ただ、決して悪いアルバムではないので、「香水」が気に入った人や、アコースティック系のSSWが好きな方なら聴いて損のないアルバムだとは思います。「香水」の次にも注目したいのですが、どうなるのでしょうか?

評価:★★★★


ほかに聴いたアルバム

廻廻奇譚 / 蒼のワルツ /Eve

動画投稿サイトへの歌唱動画投稿や、ボカロPとしても活躍していた男性シンガーソングライターによるミニアルバム。彼のアルバムを聴くのは「おとぎ」「Smile」に続き3作目ですが、ボーカルスタイルとして落ち着きが増し、マイナーコード主体のアップテンポチューンという、ネット発ミュージシャンによくありがちなタイプの楽曲から、もうちょっと落ち着いて聴かせる楽曲が増えた印象。曲名はいかにも自意識過剰系のネット発という印象は否めないのですが、全体としてはいい意味でポピュラリティーが増した印象。ポスト米津玄師になれるか?

評価:★★★★

Eve 過去の作品
おとぎ
Smile

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