勢いが止まらない!
Title:Loveless Love
Musician:曽我部恵一
曽我部恵一の勢いが止まりません!2016年にリリースされたサニーデイ・サービスの傑作「DANCE TO YOU」以降、サニーデイでも積極的な活動を続ける曽我部恵一。2019年はサニーデイの活動はなかったものの、ソロとして「ヘブン」、「There is no place like Tokyo today!」と同時に2作もリリース。さらに2020年はサニーデイで新作「いいね!」をリリースしたかと思えば、さらに年末ギリギリに配信限定でリリースしてきたのが本作。まさに多作な状況が続いています。
普通、この手の「多作」な状況が続くと、楽曲としての出来は今一つになってきていまうケースが少なくありません。しかし、どうも曽我部恵一の場合はそうではないようで、サニーデイの作品は傑作続きですし、さらにその合間にリリースされるソロ作についてもはずれがありません。もうすっかりベテランの域に達している彼ですが、まさに今、ミュージシャンとして脂ののった状態である、ということは間違いないでしょう。
さらに特徴的なのが、アルバムとしてのベクトルが比較的明確で、いい意味で聴きやすさを感じるサニーデイの作品と比べて、曽我部恵一ソロの作品は、彼が演りたいことを自由に演っている感の強いアルバムに仕上がっているという点。おそらく、サニーデイとしても以前は比較的演りたい作品を演っていた部分はあるのですが、そうしてリリースされたアルバム「the City」が賛否両論だった影響もあるのでしょう(私は傑作だと思いますが)、その後リリースされたソロ作「ヘブン」「There is no place like Tokyo today!」は彼が演りたい音楽を演りたいように演ったソロ作となっていました。
そして今回のアルバムについても、まさにそんな曽我部恵一が演りたい音楽だけどサニーデイとしては発表できなかった楽曲が収録されたアルバムになっているように感じました。ジャンル的にはバラバラ感が強く、1曲目の「Cello Song」はエレクトロ色の強い楽曲ですし、「ただ一度」はサイケ感もあるバンドサウンドが特徴的。さらに「冬のドライブ」ではゆらゆら帝国か?と思うような、空間を生かしたシンプルでサイケなバンドサウンドの楽曲に仕上がっています。
比較的、サイケ感の強い楽曲にちょっとビックリする序盤から一転、「どっか」はアコギで聴かせるフォーキーな作品に。「永久ミント機関」は爽快なシティポップ風の作品になっていますし、「ブルーミント」はアコギで静かに聴かせるポップチューンに。ここらへんはサニーデイな曽我部が好きな人にも気に入りそうなポップチューンになっています。
その後は、音頭風のサウンドにダビーな処理を加えた「戦争反対音頭」や、幻想的なサウンドが特徴的な「満月ライン」など、本当にどの曲もバラバラと言えるようなサウンドが特徴的。彼がサニーデイとしては演れなかった、あるいは演りそこねたような楽曲が次々と登場していきます。そのため、アルバム全体としてはちょっと統一感のないような感じもしないではないのですが、それ以上に1曲1曲、非常に凝った作品が続き、メロディーラインにもインパクトがあり、何よりも勢いがあります。結果、アルバム全体としては曽我部恵一の勢いを感じさせる傑作アルバムに仕上がっていました。
また、もうひとつ特徴的なのがその歌詞の世界で、一言でいえば、日常と社会を交差するような歌詞が特徴的。「冬のドライブ」や「どっか」のような、日常に立脚したような歌詞が特徴的なのですが、「冬のドライブ」では「動物もウイルスもみな同じ」というコロナ禍を彷彿したような一説が登場したり、アルバムの中では「戦争反対音頭」なんていう社会派的な曲もあったりします。そして一番特徴的なのが「Sometimes In Tokyo City」で、東京の今の風景を描いたような歌詞なのですが、その中でも社会派的な視点も登場してきたりしています。よくよく考えれば、「日常的な歌詞」と「社会派な歌詞」というのは、それぞれ別々・・・と考えがちなのですが、間違いなく日常というのは社会の中で成り立っている訳で、そういう意味では両者は本来、切り離せられないものなのかもしれません。今回の曽我部恵一のアルバムでは、そんな「日常」と「社会」が交差する場所を描いたような歌詞が印象に残ります。
既に紹介した2020年年間ベストアルバムでも10位にランクインさせたように、間違いなく、2020年を代表する傑作アルバムだった本作。サニーデイの「いいね!」も傑作でしたが、個人的には本作の方が、より曽我部恵一の本質に迫った傑作アルバムだったように感じます。これだけ多作でありながら、このクオリティーを維持し続けるあたりに驚愕してしまうのですが、2021年もまだまだ彼の勢いは止まらなそう。これからの活躍も楽しみです!
評価:★★★★★
曽我部恵一 過去の作品
キラキラ!(曽我部恵一BAND)
ハピネス!(曽我部恵一BAND)
ソカバンのみんなのロック!(曽我部恵一BAND)
Sings
けいちゃん
LIVE LOVE
トーキョー・コーリング(曽我部恵一BAND)
曽我部恵一 BEST 2001-2013
My Friend Keiichi
ヘブン
There is no place like Tokyo today!
The Best Of Keiichi Sokabe -The Rose Years 2004-2019-
純情LIVE(曽我部恵一と真黒毛ぼっくす)
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