「令和二年」の現状を描写
Title:令和二年、雨天決行
Musician:amazarashi
コロナ禍に襲われた2020年。そんな世界の日常が一気に壊された1年をテーマとした、タイトルそのまま「2020」と題されたアルバムが昨年は多くリリースされました。ここで紹介しただけでTHA BLUE HERB、eastern youth、打首獄門同好会、a flood of circle、さらに海外ではBON JOVIも同タイトルのアルバムをリリースしています。本作も、そんな2020年をテーマとしたアルバムの1枚に名を連ねることでしょう。amazarashiの5曲入り(初回盤は+3曲)のミニアルバム。amazarashiは昨年3月にアルバムをリリースしたばかりですから、それだけこのコロナ禍に対して、表現したいと思う気持ちが強かったのではないでしょうか。
まず本作、新曲は5曲のみですが、どの曲も現在の状況を強く反映した曲になっているという点、大きな特徴ではないでしょうか。ほかの「2020」と題された曲も、今年の世相を強く反映した曲はあるものの、全曲が「2020」を反映しているか、というとそうではありません。しかしこのamazarashiのアルバムは、いずれの曲も、コロナ禍の現在の様相が垣間見れる作品になっていました。
このアルバムを象徴するとも言えるのが1曲目、タイトルそのまま「令和二年」。ピアノやアコースティックギターを取り入れて、明るくもどこかもの悲しさを感じさせるサウンドも印象的ですが、令和二年の壊れた日常を描写した歌詞も強く印象に残ります。
「封切りの映画 新譜のツアー
中止の入学式 令和二年」
「封鎖の公園の桜 誰に見られずとも咲いた
残念だな 残念だな 約束したはずなのに」
(「令和二年」より 作詞 秋田ひろむ)
など、まさに昨年の春先の状況を強く感じさせる歌詞が並びます。何年か経って、この歌詞を聴き2020年を思い起こすと、非常に複雑な気持ちになるように思います。
続く「世界の解像度」も生と死をテーマとした作風はコロナ禍の現在を彷彿とさせますし、「太陽の羽化」も日常の狂いを描写した歌詞が、こちらもコロナ禍を彷彿とさせます。また「馬鹿騒ぎはもう終わり」も、まさにコロナに左右され、コロナに対する感覚をめぐり、人々の分断が生み出された2020年を彷彿とさせる歌詞になっています。
そして、1曲目の「令和二年」と並び本作のハイライトとなっているのは新曲ラストの「曇天」でしょう。ポエトリーリーディングの作品となった本作は、THA BLUE HERBからの影響も強く感じる曲。「とにもかくにも僕らの日常は奪われた」という最初の一文からまずドキリとさせられます。そして、そんな中で綴られるのが令和二年の現状。そんな中でも特に、コロナ禍の中で虐げられる弱者に対して向けられる視点に、amazarashiの強い主張を感じます
「人気投票はいいが無視されている下位の感情
だから頷けない、売れたもん勝ちって価値観
結局は権威主義の上で尻尾を振れってまじか」
(「曇天」より 作詞 秋田ひろむ)
という歌詞も、この楽曲の中での強い主張を感じますし、さらにストレートに表現されているのが
「弱い者や少数派をないがしろにしてはいけないって訳は
明日なり得るあなたの姿だからだ」
(「曇天」より 作詞 秋田ひろむ)
という歌詞にも、秋田ひろむの強いメッセージを感じさせます。
やはりこの「令和二年」に送るべきメッセージを強く押し出した作品なだけに、サウンド以上に秋田ひろむの言葉が目立った本作。ただ、全体的なサウンドやメロディーラインはどこかもの悲しく、鬱々とした感じが伝わっており、サウンド面でも2020年の空気感を伝える作品になっていました。
昨年から今年の本作まで、様々な「2020年」を描いた作品を聴いてきましたが、そんな中で、もっともこの鬱々とした空気感を伝え、かつそのような状況の中で苦しんでいる人たちの姿を弱者の視点から描いた作品になっていたと思います。そういう意味では、5年後10年後にこのアルバムを聴いたときに、もっともリアリティーを持って2020年を思い出せるようなアルバムになっているようにも感じました。秋田ひろむの作詞家としての才が冴え、そして彼の抱えたメッセージが強く伝わってきた1枚。ただ「令和三年」こそ、明るい1年になることを切に祈るのですが。
評価:★★★★★
amazarashi 過去の作品
千年幸福論
ラブソング
ねえママ あなたの言うとおり
あんたへ
夕日信仰ヒガシズム
あまざらし 千分の一夜物語 スターライト
世界収束二一一六
虚無病
メッセージボトル
地方都市のメメント・モリ
ボイコット
ほかに聴いたアルバム
Who I Am/milet
昨年、紅白への初出場も果たした女性シンガーソングライターmiletの5曲入りのEP。バンドサウンドにピアノ、ストリングス、曲によってはエレクトロサウンドも取り入れたダイナミックなサウンドに力強いボーカルが印象的。ただ、歌が上手いのは間違いないのですが、彼女だけが持っているような個性というか「色」はまだ薄い印象で、miletといえばこんな曲といった感じで思い浮かばないのがマイナスか。紅白で知名度も一気にあがったのですが、それを維持するには、もう一皮むける必要があるような。
評価:★★★★
milet 過去の作品
eyes
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