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2021年1月17日 (日)

人間の様々な側面を「金継ぎ」で固めたアルバム

Title:Kintsugi
Musician:大森靖子

ある意味、大森靖子らしいタイトルとも言えるのですが、若干妙な今回のアルバムタイトルは、陶磁器の割れた部分の修復技法である「金継ぎ」からとられたタイトル。アルバムのジャケットも、実際に「皿」を作成したうえで割って、さらに金継ぎを施したものを写真に撮ったものを使用するという力の入れよう。宣伝文句として「人間の尖っているところ、汚いところ、かわいいところを集めた楽曲を“金継ぎ”で固めたオリジナルフルアルバム」となっていますが、まさに人間の様々な側面を描写する大森靖子の音楽性からすると「金継ぎ」=Kintsugiというタイトルはふさわしい感じがします。

今回、音楽的な側面からも、様々なタイプの音楽を取り込んでいる点が特徴的。特にアレンジャーとして「えちえちDELETE」ではクラムボンのmito、「NIGHT ON THE PLANET」では大沢伸一を起用。「えちえちDELETE」ではピアノとバンドサウンドで少々過剰気味とも言える分厚いサウンドを醸し出しており、良くも悪くもJ-POP的な感じ。「NIGHT ON THE PLANET」はシンセのサウンドなどでクラブ系の様相もあるのですが、こちらも大沢伸一としては若干過剰気味な分厚い音色が特徴的なアレンジとなっています。

そのほかにもアップテンポな四つ打ちが特徴的な「counter culture」に、パンキッシュな「堕教師」、トランシーなサウンドでダイナミックに聴かせる「CUNNING HEEL」やエレクトロサウンドにバンドサウンドで、ある意味、今風なアイドルソングとも言える「ANTI SOCIAL PRINCESS」などバラエティー豊富な音楽性を展開させています。

歌詞の世界ももちろん、人間の、特に汚れた部分や影の部分を取り上げたような歌詞が特徴的で、「人でなしでいい 女したいわけじゃない」という、あまりにも率直すぎる本音の部分をえぐるような「夕方ミラージュ」や、「聖職」と奉られることの多い教師の堕落ぶりを人間的に描いた「堕教師」、非常にあけらさまな女性の「性」の部分をストレートに歌う「えちえちDELETE」など、「金継ぎ」というタイトルの元ともなった、人間の様々な側面を集めた歌詞が特徴的な内容となっています。

ただし、正直言えば、こういう様々な音楽性を取り入れた音楽性も、人間の様々な要素にスポットをあてた歌詞も、決して今回のアルバムではじめて取り上げたものではなく、いままでの大森靖子の音楽でも取り上げられていたもの。そういう意味では、今回のアルバムがいままでの彼女のアルバムと比べると大きく異なるか、と言われるとそんなこともなく、逆に実に彼女らしいアルバムと言えるかもしれません。

ただもっとも今回のアルバム、より様々な音楽性を取り入れようとした結果かもしれませんが、上にも何度か書いた通り、アレンジが少々過剰気味になってしまい、ごちゃまぜ感が強くなってしまった印象もあります。この点も、いままでの彼女の作品にも感じていて、マイナス点にもなっていました。一方、彼女のアルバムの中でも「傑作」と感じた作品に感じては、それを上回る印象的な歌詞が登場していたのですが、今回のアルバムに関しては、「はっ」とさせられるような歌詞があまり登場しませんでした。歌詞も全体的にごちゃごちゃ感が強く、いろいろな「要素」を詰め込みすぎてしまった結果、いまひとつ整理されていないような印象がしてしまいました。

全体的に悪いアルバムではないのですが、サウンドにしろ歌詞にしろ、詰め込みすぎという(これは昨今のJ-POPでよくありがちなのですが)彼女の「悪い」側面がネガティブに目立ってしまったアルバムになってしまったように感じます。そういうマイナスポイントも含めて彼女らしいアルバム、とも言えるのですが・・・ちょっと惜しい感のする作品でした。

評価:★★★★

大森靖子 過去の作品
洗脳
トカレフ(大森靖子&THEピンクトカレフ)
TOKYO BLACK HOLE
kitixxxgaia
MUTEKI
クソカワPARTY
大森靖子

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